
預り金の管理と残高合わせ|一時的に預かったお金の行方
「この預り金の残高、なんでこの金額なんだっけ……?」 月末、試算表を眺めていて、預り金の行でふと手が止まる。給与から天引きした源泉税、社会保険料、住民税——ぜんぶ同じ「預り金」に入っていて、内訳がぱっと出てこない。合っている気もするし、ずれている気もする——ひとりで経理を回していると、この小さなモヤモヤは本当に身近ですよね。
でも、ここで詰まるのは、あなたの管理が雑だからではありません。預り金は、性格の違うお金が一つの科目に集まりやすいうえに、天引きするタイミングと納める(納付する)タイミングがずれるから、残高の意味が一目で分かりにくいのです。逆に言えば、「何を・いくら預かって、いつ・いくら納めたか」さえ並べれば、残高はちゃんと説明できるようになります。
この記事では、「預り金とはそもそも何なのか」「どう仕訳して、いつ納付で消すのか」「残高はどう合わせて確認するのか」までを、実例と早見表でひととおり整理します。今日は全部を暗記しなくて大丈夫。まずは「預り金は、人のお金を一時的に預かっているだけ」という地図を、一緒に作っていきましょう。
結論:預り金は、会社のお金ではなく、従業員などから一時的に預かって、あとで第三者(税務署・年金事務所・市区町村など)に納めるお金です。会計上は「あとで払う義務」=負債。給与などから天引きしたときに貸方で預り金を増やし、納付したときに借方で預り金を減らして残高を消します。だから、月末の預り金残高=まだ納めていない預り分、というのが基本の意味です。中身が混ざらないよう、源泉所得税・社会保険料・住民税などは補助科目で分けておくと、残高合わせが一気に楽になります。合わないときは「天引きした額」と「納付した額」を月ごとに突き合わせれば、たいていズレの場所が見つかります。
まず押さえる:預り金は「人のお金の一時預かり」
最初に、考え方の根っこだけ押さえておきましょう。ここが分かると、細かい仕訳が頭に入りやすくなります。
預り金は、会社が自由に使えるお金ではありません。給与から天引きした源泉所得税を例にすると、その8,000円は「従業員が本来払うべき所得税を、会社が代わりにいったん預かって、まとめて税務署に納める」ためのお金です。つまり会社は、預かって、右から左へ渡すだけの通り道。だから会計では「あとで納める義務があるお金」=負債として扱います。
- 天引きしたとき:従業員のお金を預かった=負債が増える → 貸方に「預り金」。
- 納付したとき:預かったお金を第三者に納めた=負債が減る → 借方に「預り金」。
この向きだけ押さえれば、あとは「何を預かっているか」を並べるだけです。ひとり経理でよく出てくる預り金は、だいたい次の4つです。
- 源泉所得税:給与・賞与・士業への報酬などから天引きした所得税
- 社会保険料(健康保険・厚生年金):従業員負担分
- 雇用保険料:従業員負担分
- 住民税(特別徴収):給与から天引きした市区町村への住民税
※どれも「従業員などから預かって、あとで納める」点は同じですが、納め先も納期も違います。源泉所得税は税務署、社会保険料は年金事務所(協会けんぽなど)、住民税は各市区町村。ここが分かれているのが、残高が混ざって見える大きな理由です。
混ざらないコツ:預り金は「補助科目」で分ける
判断の前に、いちばん効く準備を一つだけ。それは、預り金を中身ごとに分けて記録することです。

会計ソフトでは、預り金という一つの勘定科目の下に、補助科目(内訳)をつけられます。たとえば「預り金/源泉所得税」「預り金/社会保険料」「預り金/住民税」のように分けておくと、それぞれの残高が別々に見えます。
これをやっておくと、月末の残高を見たときに「源泉所得税の預りが◯円、住民税の預りが◯円」と中身が分かるので、どれがまだ納まっていないのかが一目で分かります。逆に、全部を一つの「預り金」にまとめてしまうと、残高がいくらであっても「この数字は何の集まり?」と、毎回内訳を追いかけることになります。補助科目を分けるのは最初の一手間ですが、あとの残高合わせをいちばん軽くしてくれる工夫です。
実際の仕訳例(預かって、納めるまで)
考え方が分かったら、あとは記帳です。給与を例に、「預かるとき」と「納めるとき」をセットで見てみましょう(金額・科目名は一例です。自社の科目体系に合わせてください)。

例1:給与30万円を支給し、源泉所得税8,000円・社会保険料45,000円・住民税12,000円を天引きして、差引235,000円を振り込んだ
給与総額を経費(給与手当)で計上し、天引きした分を預り金(貸方)で受け止め、残りを支払います。
(借方)給与手当 300,000 / (貸方)預り金(源泉所得税) 8,000
/ (貸方)預り金(社会保険料) 45,000
/ (貸方)預り金(住民税) 12,000
/ (貸方)普通預金 235,000
摘要:○月分給与 ○○さん
この時点で、預り金(源泉所得税)8,000円・(社会保険料)45,000円・(住民税)12,000円が、それぞれ「これから納める分」として帳簿に積み上がります。
例2:天引きした源泉所得税を税務署に納付した
預かっていた源泉所得税を、借方の預り金で消します。
(借方)預り金(源泉所得税) 8,000 / (貸方)普通預金 8,000
摘要:○月分 源泉所得税納付
これで源泉所得税の預り分の残高がゼロに戻ります。なお、源泉所得税の納付は原則として天引きした月の翌月10日までですが、給与を支払う人数が常時10人未満の会社が「納期の特例」を届け出ている場合は、1〜6月分を7月10日まで、7〜12月分を翌年1月20日までの年2回にまとめて納められます。特例を使っていると預り金が半年分たまるので、残高が大きく見えても、それは「まだ納期が来ていない預り分」だと分かっていると落ち着けます。
例3:社会保険料を納付した(従業員負担分+会社負担分)
社会保険料は、従業員から預かった分(預り金)と、会社が負担する分(法定福利費)を合わせて年金事務所などに納めます。
(借方)預り金(社会保険料) 45,000 / (貸方)普通預金 90,000
(借方)法定福利費 45,000 /
摘要:○月分 社会保険料納付
ここは「従業員から預かった45,000円」と「会社が負担する45,000円」がセットで出ていくのがポイントです。預り金だけで全額を消そうとすると合わなくなるので、会社負担分は法定福利費で受けます。社会保険料は原則として当月分を翌月末に納付するため、給与天引きのタイミングと納付月がずれます。このズレが、預り金残高の「合っているのに一見ずれて見える」正体になりやすいところです。
例4:住民税(特別徴収)を納付した
(借方)預り金(住民税) 12,000 / (貸方)普通預金 12,000
摘要:○月分 住民税(特別徴収)納付
住民税の特別徴収も、給与から天引きした分を原則として翌月10日までに各市区町村へ納めます。仕訳の形は源泉所得税と同じで、「預かって、納めて、残高を消す」——この繰り返しです。
仕訳そのものは、慣れれば難しくありません。大事なのは、天引き(貸方)と納付(借方)を必ずセットで考えること。片方だけで止まっていると、残高が積み上がったまま残ります。科目の選び方そのものに迷うときは、勘定科目の選び方|迷ったときの判断軸と科目一覧もあわせて見てみてください。
残高の合わせ方:ズレの場所はこう探す
預り金の残高が「合っているか分からない」ときは、頭の中で次の順番に当ててみてください。これが確認の型になります。
手順1:補助科目ごとに残高を出す
まず、預り金を「源泉所得税」「社会保険料」「住民税」などに分けて、それぞれの残高を出します。全部まとめた合計だけでは、どこがずれているか分かりません。分けることが、確認の第一歩です。
手順2:その残高が「何か月分の預りか」を思い浮かべる
- 源泉所得税(納期の特例なし):翌月に納めるので、月末残高はその月に天引きした分だけが残るのが基本。
- 源泉所得税(納期の特例あり):半年分まとめて納めるので、納付前は数か月分がたまっているのが正常。
- 社会保険料:当月分を翌月末に納めるので、月末時点で直近1か月分の預りが残っているのが基本。
- 住民税(特別徴収):翌月10日に納めるので、月末残高はその月に天引きした分が残るのが基本。
「いま残っているのは何か月分のはずか」を先に思い浮かべると、残高が多すぎ/少なすぎのどちらなのかが見えてきます。
手順3:天引き額と納付額を月ごとに突き合わせる
それでも合わないときは、給与明細の天引き合計(預かった額)と、納付書・引落記録(納めた額)を月ごとに並べます。たいていのズレは、
- 天引きしたのに納付の仕訳が抜けている(残高が納めた分だけ多い)
- 納付したのに天引きの仕訳が抜けている、または金額違い
- 会社負担分(法定福利費)を預り金で消してしまった(社会保険料でよくある)
- 端数の処理が天引きと納付で違う
このあたりで見つかります。ここまで来れば、直す場所は具体的に一か所に絞れます。残高合わせは、勘ではなく「預かった額」と「納めた額」の突き合わせ——そう覚えておくと、迷いが減ります。消し込みの考え方そのものは、入金差額の確認とも共通しています。
早見表:ひとり経理でよく出る預り金
言葉だけだと混ざりやすいので、表で並べてみます(納期は原則の考え方です。自社の届出状況や自治体の指定で異なることがあります)。
| 預り金の中身 | 誰から預かる | 納め先 | 納付の目安 |
|---|---|---|---|
| 源泉所得税 | 従業員・報酬の相手 | 税務署 | 翌月10日(特例なら年2回:7/10・1/20) |
| 社会保険料(従業員負担分) | 従業員 | 年金事務所・協会けんぽ等 | 当月分を翌月末 |
| 雇用保険料(従業員負担分) | 従業員 | (労働保険料として年度更新で精算) | 年度更新で確定・納付 |
| 住民税(特別徴収) | 従業員 | 各市区町村 | 翌月10日 |
同じ「預り金」でも、納め先も納期もバラバラなのが分かります。だからこそ、補助科目で分けておくと管理がぐっと楽になります。
ここを放っておくと、何が起きる?
預り金の残高を確認しないまま放置すると、いちばん怖いのは納付漏れです。従業員から天引きしたのに納め忘れると、預り金だけが積み上がり、あとで「これ、納めたっけ?」と決算前の忙しい時期に慌てて調べることになります。源泉所得税や社会保険料は、納付が遅れると延滞税・延滞金などの負担が生じることもあるため、天引き=あとで必ず納めるお金という意識が大切です。
ただ、これは「読者を試すための落とし穴」ではありません。天引きした分は、その納期までに納めて残高を戻す——この基本を月ごとに回すだけで、預り金はきれいに保てます。むずかしいのは金額の計算よりも、「納期がバラバラで忘れやすい」こと。だからこそ、納期を一覧にして先回りしておくと安心です。納付スケジュールを整えたいときは、申告・納付の段取りや給与計算の基本もあわせて見てみてください。ここで丁寧に残高を合わせておくことは、手間ではなく、あとで落ち着いて月次・決算を迎えるための準備です。
預り金の管理・残高合わせチェックリスト
試算表の預り金で手が止まったら、上から順に確認してみてください。
- 預り金を「源泉所得税/社会保険料/住民税」などに補助科目で分けているか
- 給与天引き時に、天引きした分を預り金(貸方)で計上しているか
- 納付時に、預り金(借方)で残高を消しているか
- 社会保険料の納付で、会社負担分を法定福利費で受けているか(預り金で全額消していないか)
- 月末残高が「何か月分の預りか」を説明できるか
- 合わないときは、天引き額と納付額を月ごとに突き合わせたか
- 源泉所得税の納期の特例を使っているか、次の納付日(7/10・1/20)を把握しているか
明日やること(まず1つだけ)
全部の預り金を一度に整えようとすると、それだけで気が重くなります。 明日やることは、「試算表で預り金の残高を開いて、いちばん金額の大きい中身を1つだけ選び、『何を・いつまでに納める分か』をメモしてみる」だけで十分です。
補助科目で分かれていなければ、まず「これは源泉税か、社会保険料か、住民税か」を思い出すところから。それが書ければ、次に納める日も見えてきます。もし残高の意味がすぐ分からなければ、その行に印をつけて、直近の給与明細と納付書を並べてみる。それだけで、決算前にまとめて調べる作業がひとつ減ります。小さな一歩ですが、確実に未来の自分を助けます。
最後に
預り金の管理は、天引きした金額と納めた金額を何度も突き合わせながら「これで合っているかな」と確かめる、地味で気をつかう作業です。人から預かったお金を、納期を守って正しく納めきる——それを毎月ひとりで回しているのは、決して簡単なことではありません。

でも、これは「正解を一発で当てる試験」ではありません。天引きで預り金を増やし、納期までに納めて残高を消す。その流れを身につければ、預り金は「よく分からない残高」ではなく「あと少しで納める分」に見えてきます。 今日、預り金の地図がひとつ頭に入ったなら、それはもう「固まる作業」が「進められる作業」に変わり始めた証拠です。完璧でなくて大丈夫。今日できたところまでで、十分前に進んでいます。
本記事は一般的な実務情報です。預り金の科目の使い方や納付の期限・手続きは、会社ごとの会計方針や届出状況、各制度の最新の取扱いによって異なります。源泉所得税・社会保険料・住民税の具体的な取扱いや納付の最終的な判断は、顧問税理士・所轄税務署・年金事務所・各市区町村にご確認ください。
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