
年末調整のスケジュールとやること|担当者が迷わない全体像
「今年もそろそろ年末調整の時期か……」 カレンダーが秋に近づくと、給与をひとりで回している人の頭には、毎年この言葉がよぎりますよね。従業員に書類を配って、集めて、計算して、精算して、年明けに役所へ提出して——やることは何となくわかるのに、「結局、いつ・何を・どの順でやるんだっけ」が毎年あいまいで、そのたびに身構えてしまう。その落ち着かなさは、とても身近だと思います。
でも、ここで迷うのは、あなたの準備不足のせいではありません。年末調整は10月ごろから翌年1月までまたぐ、長くて登場人物の多い作業です。しかも1年に1回しか回ってこないので、去年の記憶が薄れているのは当たり前なのです。逆に言えば、全体を「月ごとの地図」にしてしまえば、あとはその順番どおりに歩くだけになります。
この記事では、年末調整を「準備 → 書類集め → 計算・精算 → 翌年の提出」という流れに分けて整理します。今日は控除の細かい計算まで覚える必要はありません。まずは「いつ、何をやるか」という全体の順番を、一緒にはっきりさせていきましょう。
結論:年末調整は、①10月ごろ=準備(申告書の配布・控除証明書の案内)→ ②11月ごろ=回収(従業員から申告書と証明書を集める)→ ③12月=計算・精算(年税額を出し、12月の給与か賞与で過不足を還付/追徴)→ ④翌年1月=提出(源泉徴収票の交付、給与支払報告書を市区町村へ・法定調書を税務署へ、原則1月31日まで)、という4ステップで進みます。要は「1年間に源泉徴収した所得税の合計」と「本来納めるべき年税額」の差額を年末に精算する手続きです。基礎控除や様式は近年の税制改正で見直しが続いているので、実際の作業前に、その年分の最新の様式・控除額を必ず国税庁で確認してください。
そもそも年末調整とは:1年分の所得税を「精算」する手続き
細かいスケジュールに入る前に、目的だけ先に押さえておきましょう。ここがぼんやりしていると、作業が「言われたからやる書類仕事」になってしまい、かえって迷いやすくなります。
会社は、毎月の給与を払うときに、あらかじめ決まった表にもとづいて源泉徴収(給与から所得税をあずかって、本人の代わりに納めること)をしています。ただ、この毎月の天引きはあくまで「概算」です。実際の1年間の所得税は、扶養している家族の人数や、生命保険料・地震保険料をいくら払ったか、といった事情が全部そろって、はじめて正しく計算できます。
そこで年末に、「1年間にあずかった所得税の合計」と「本当に納めるべき1年分の所得税(年税額)」を比べて、その差額を精算するのが年末調整です。
- あずかりすぎていた → 差額を本人に還付(12月の給与などで返す)
- あずかりが足りなかった → 差額を本人から追加徴収
多くの人は還付になることが多いので、従業員から見れば「12月の手取りが少し増える手続き」でもあります。この「概算を、年末に正しい額へ合わせ直す」というイメージだけ持っておけば、以降の作業の意味がつながってきます。
全体スケジュール:10月から翌年1月までの流れ
年末調整は、1か月で終わる作業ではありません。準備・回収・計算・提出が、秋から年明けにかけて少しずつ動いていきます。まずは全体の地図を見ておきましょう。

- ① 10月ごろ|準備:その年分の申告書を用意し、従業員に配る。生命保険料などの控除証明書を「なくさず持ってきてね」と早めに案内する。
- ② 11月ごろ|回収:従業員から申告書と控除証明書を集め、記入もれ・添付もれをチェックする。
- ③ 12月|計算・精算:全員の年税額を計算し、12月の給与または賞与で過不足を還付・追徴する。
- ④ 翌年1月|提出:源泉徴収票を本人へ交付し、給与支払報告書を市区町村へ・法定調書合計表を税務署へ提出する(原則1月31日まで)。
時期は会社の給与支払日によって前後します。大切なのは月の正確さより、この4ステップの順番です。では、各ステップで具体的に何をやるかを見ていきましょう。
① 10月ごろ:準備(申告書を配り、証明書を案内する)
最初の一歩は、「従業員に、必要な書類を早めに知らせる」ことです。ここを丁寧にやっておくと、あとの回収がぐっと楽になります。
- その年分の申告書を用意する:様式は毎年更新されます。前年の使い回しにならないよう、その年分の最新版を国税庁のサイトか、使っている給与ソフトから入手します。
- 従業員に配布・案内する:主に集めるのは次の書類です(名称は長いので、社内では通称でかまいません)。
- 扶養控除等(異動)申告書:扶養している家族などを申告する、いちばん基本の書類。
- 基礎控除・配偶者控除等・所得金額調整控除の申告書:本人や配偶者の所得に関する申告書。近年の改正で様式や控除の枠組みが見直されているため、その年分の最新様式を使います。
- 保険料控除申告書:生命保険料・地震保険料・社会保険料(自分で払った国民年金など)・小規模企業共済等掛金を申告する書類。ここに控除証明書の添付が必要です。
- 「証明書をなくさないで」と早めにひと声:生命保険料控除証明書などは、10月ごろに各保険会社から従業員あてに届きます。「11月◯日までに、この封筒ごと持ってきてください」と先に伝えておくと、「見当たらない」「再発行に時間がかかる」といった11月の慌ただしさを減らせます。
住宅ローン控除の2年目以降に当てはまる人には、税務署から届く住宅借入金等特別控除の申告書と、金融機関の残高証明書もあわせて案内しておきます。
② 11月ごろ:回収とチェック(集めながら、もれを見つける)
配ったら、次は集めて、記入・添付のもれを確認する段階です。ここが年末調整でいちばん人手のかかるところですが、コツは「完璧に一発回収」を狙わないことです。
- 提出期限を決めて回収する:12月の給与計算に間に合うよう、社内の締め切り(たとえば11月末など)を先に決めて伝えます。
- その場で軽くチェックする:受け取るときに、次の3点だけ見ておくと、後戻りが減ります。
- 押印・記名・日付などの基本項目が埋まっているか。
- 保険料控除申告書に、控除証明書が添付されているか(金額の書き写しだけで原本がない、が起きやすい)。
- 扶養している家族などに変更(結婚・出産・扶養から外れた等)がないか。
- もれは「気づいた人から」戻す:全員そろうのを待つと締め切りが後ろ倒しになります。もれがあった人にだけ、早めに「ここだけ追加でお願いします」と戻すほうが、結局スムーズです。
中途入社の人がいる場合は、前職の源泉徴収票が必要になることがあります。まだもらっていない人には、早めに前職へ請求するよう伝えておきましょう。これも11月に慌てないための、小さな先回りです。
③ 12月:計算と精算(12月給与で過不足を返す・追徴する)
書類がそろったら、いよいよ年税額を計算し、過不足を精算します。実際の計算は給与ソフトが担ってくれる会社が多いですが、「何をしているか」は押さえておきましょう。
大きな流れはこうです。
- 1年間の給与・賞与の総額を確定する。
- そこから給与所得控除や、集めた各種控除(扶養・配偶者・生命保険料・社会保険料・基礎控除など)を差し引いて、その人の1年分の所得税(年税額)を計算する。
- 年税額と、毎月あずかってきた源泉徴収税額の合計を比べる。
- 差額を、12月の給与または賞与で精算する(あずかりすぎ=還付、足りない=追加徴収)。
精算のタイミングは会社によって「12月の給与で」「12月の賞与で」など異なりますが、いずれにせよその年の最後の給与支払いで反映するのが一般的です。給与ソフトを使う場合でも、扶養人数や控除額の入力が正しいかを一度確認しておくと安心です。
控除額の計算そのものは、近年の税制改正(基礎控除や給与所得控除の見直しなど)で毎年のように変わっています。去年の感覚のまま金額を手計算しないこと。その年分の「年末調整のしかた」(国税庁)や、最新版に更新した給与ソフトに計算を任せ、担当者は入力と結果の確認に集中するのが、いちばん事故が少ない進め方です。
④ 翌年1月:提出(源泉徴収票・給与支払報告書・法定調書)
年末調整は、12月の精算で終わりではありません。年が明けてからの提出物まで含めて、ワンセットです。ここを忘れると、あとで催促が来てしまいます。
- 源泉徴収票を本人へ交付:年末調整の結果をまとめた源泉徴収票を、従業員に渡します。
- 給与支払報告書を市区町村へ提出:従業員が住む各市区町村に提出します。これが住民税の計算のもとになります。原則1月31日まで。
- 法定調書合計表・源泉徴収票を税務署へ提出:一定の条件に当てはまる人の源泉徴収票などを、法定調書合計表とあわせて税務署に提出します。こちらも原則1月31日まで。
- 源泉所得税の納付:12月分(と年末調整の精算分)の源泉所得税を納めます。納期の特例(源泉所得税を年2回にまとめて納める特例)を受けている会社は、7〜12月分をまとめて翌年1月20日までに納付します。特例を受けていない会社は、原則どおり翌月10日までです。
「12月で終わり」と気を抜くと1月がバタつきます。1月31日という共通の期限を、年末のうちにカレンダーへ入れておきましょう。
早見表:いつ・何を・どこへ
各ステップの「やること」と「相手」を一枚にまとめました。迷ったら、ここに戻ってきてください。
| 時期 | やること | 主な書類・相手 |
|---|---|---|
| 10月ごろ | 申告書の配布・控除証明書の案内 | 各種申告書 → 従業員へ配る/証明書は従業員が保険会社等から受領 |
| 11月ごろ | 申告書・証明書の回収と記入チェック | 扶養控除等・基礎控除等・保険料控除の各申告書+控除証明書 |
| 12月 | 年税額の計算・過不足の精算 | 12月の給与または賞与で還付/追加徴収 |
| 翌年1月 | 源泉徴収票の交付・提出、源泉所得税の納付 | 本人/市区町村(給与支払報告書)/税務署(法定調書):原則1/31まで |
こうして並べると、年末調整が「12月の一大イベント」ではなく、秋からゆるやかに始まる連続作業だとわかります。準備を10月に少し前倒しできるかどうかで、12月のしんどさが大きく変わります。
よくあるつまずきポイント
毎年ここで「あれ?」となりやすい、というところを先にまとめておきます。どれも「知らないと迷う」もので、あなたの不注意ではありません。
- 様式を前年のまま使ってしまう:申告書の様式や控除の枠組みは毎年見直されます。その年分の最新版を使います。
- 控除証明書の添付もれ:金額だけ書き写して原本の添付が抜けている、が起きやすい。回収時にセットで確認します。
- 中途入社者の前職分を忘れる:前職の源泉徴収票が必要。含めずに計算すると年税額がずれます。
- 住宅ローン控除2年目以降の書類を待たずに締めてしまう:税務署からの申告書と金融機関の残高証明書がそろってから計算します。
- 1月の提出・納付を失念する:源泉徴収票の交付、給与支払報告書・法定調書の提出、源泉所得税の納付は原則1月31日まで(納期の特例は1月20日納付)。
- 控除額を手計算で去年の感覚のまま出す:近年の改正で計算が変わっています。最新のソフト・資料に任せ、担当者は確認役に回ります。
チェックリスト:年末調整でつまずかないために
「全部を一度に完璧に」だと繁忙期に潰れてしまいます。そこで時期ごとに、最低限これだけ、という形に分けました。
【10〜11月・集める前後】
- その年分の最新様式の申告書を用意したか
- 従業員に提出期限を伝え、控除証明書の持参を案内したか
- 回収時に、記名・押印・控除証明書の添付を確認したか
- 中途入社者の前職の源泉徴収票を手配したか
【12月・計算と精算】
- 扶養人数・各種控除の入力が正しいか(給与ソフトの設定を確認)
- 過不足を12月の給与または賞与で精算したか
【翌年1月・提出と納付】
- 源泉徴収票を本人へ交付したか
- 給与支払報告書を各市区町村へ提出したか(原則1/31)
- 法定調書合計表を税務署へ提出したか(原則1/31)
- 源泉所得税を納付したか(納期の特例は1/20)
明日やること(まず1つだけ)
まだ7月で、年末調整は先の話に感じるかもしれません。それでも、今できる一番かんたんな一手があります。
明日やることは、「去年の年末調整の書類一式(申告書や、作業メモがあればそれ)を1か所にまとめて開いてみる」だけで十分です。去年の自分がどこで詰まったか、どの書類の回収が遅れたかを眺めておくと、それがそのまま今年の「先回りリスト」になります。
全体の順番さえ地図として持っておけば、秋になってから慌てて組み立て直す必要はありません。今日、流れをひとつ思い出せたなら、それだけでもう今年の年末調整は少し軽くなっています。
最後に
年末調整は、従業員一人ひとりの1年分の税金を、正しく精算して届ける仕事です。書類は多く、期限もあり、しかも1年に1回しか回ってこない——それをひとりで段取りして回しているのは、本当に大変なことだと思います。

でも、これは「一度で全部を覚える試験」ではありません。準備・回収・計算・提出という4つの区切りさえ持っておけば、あとはその年の様式に合わせて、順番どおりに進めるだけです。細かい控除計算はソフトと最新資料に任せて、あなたは「いつ・何を・どこへ」の地図を持つ人でいれば十分です。
今日、その地図がひとつ頭に入ったなら、それはもう今年の年末調整の準備が始まった証拠です。完璧でなくて大丈夫。今日ここまで読めたところで、十分前に進んでいます。
本記事は一般的な実務情報です。年末調整の様式・控除額・提出期限は、税制改正や個別の事情によって毎年見直されます。最終的な判断は、国税庁の「年末調整のしかた」など最新の一次情報や、顧問税理士・所轄税務署にご確認ください。
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