勤怠の集計表と給与明細を並べ、残業時間に何をかければいいのか確かめながら電卓を打っている中小企業のひとり経理の担当者

残業代・割増賃金の計算|時間単価の出し方と割増率を一度で整理

勤怠の締め日。集計表を出して、残業時間の欄まではたどり着いた。

「Aさん、今月は22時間か」

ここまでは順調でした。問題はこの次です。22という数字に、何をかければ残業代になるのか。

給与ソフトは勝手に計算してくれる。でも、去年その金額を社長に聞かれたとき、うまく説明できませんでした。「1.25倍ですよね」とだけ答えて、「何の1.25倍?」と返されて、そこで止まってしまった。

ひとりで経理を回していると、こういう「ソフトが出してくれるから、仕組みを確かめる機会がない数字」が少しずつたまっていきます。合っているとは思う。でも、根拠を自分の言葉で言えない。それが、じわじわ効いてくる。

でも大丈夫です。残業代の計算は、かけ算が3つ並んでいるだけでした。時間単価 × 割増率 × 時間数。この3つを順番に出せば、電卓でも検算できます。今日はその3つを、一緒にひとつずつ確かめていきましょう。

結論:残業代は「① 1時間あたりの単価 × ② 割増率 × ③ 時間数」で出します。つまずくのは①と②です。①の単価は、月給を「1か月平均所定労働時間」で割って出しますが、このとき通勤手当・家族手当・住宅手当など7つの手当は基礎から外せます(外せるのは法律で決まった7つだけ)。②の割増率は時間外25%以上・深夜25%以上・法定休日35%以上の3つが基本で、1か月60時間を超えた時間外は50%以上(2023年4月から中小企業も対象)。③の時間数は、1日ごとの切り捨ては不可、1か月合計の端数だけ30分単位で処理できます。まずは自社の「1か月平均所定労働時間」がいくつか、これだけ今日確かめられれば十分です。

その残業、そもそも割増が要る残業ですか

計算に入る前に、ひとつだけ整理させてください。ここを飛ばすと、あとで全部やり直しになります。

残業には、法定内残業法定外残業の2種類があります。

労働基準法が決めている労働時間の上限(法定労働時間)は、1日8時間・週40時間です。割増賃金が必要になるのは、この法定労働時間を超えた分だけ。会社が決めた終業時刻(所定労働時間)を超えた分すべて、ではありません。

所定労働時間その日の労働割増が必要な時間
所定8時間の会社9:00〜18:00(休憩1時間)20:00まで18:00〜20:00の2時間(法定外)
所定7時間の会社9:00〜17:00(休憩1時間)19:00まで18:00〜19:00の1時間(法定外)<br>17:00〜18:00は法定内残業
所定4時間のパート9:00〜13:0015:00までなし(8時間以内なので法定内)

法定内残業の1時間は、割増(25%増し)までは法律上求められません。ただし、通常の時間給そのものは当然に払います。1.0倍の賃金は必要、0.25の上乗せは法律上は不要、という整理です。

ここは会社によって扱いが分かれます。就業規則や雇用契約で「所定を超えたら一律1.25倍」と定めているなら、その定めが優先されます(法律を上回る約束は有効です)。だから、まず自社の就業規則の該当条文を1回だけ読む。これが、遠回りに見えていちばんの近道です。

迷いやすいのはパート・アルバイトです。「所定4時間の人が6時間働いた」は、法律上の割増は不要です。ただ、本人には「残業した」感覚があります。トラブルの芽になりやすいので、契約書に書いてある扱いを、本人にも一度説明しておくと安心です。

もうひとつ、休日にも2種類あります。法定休日(週1日、または4週4日の休日)に働いた分が35%増しの対象で、それ以外の休みの日(所定休日。土日休みの会社の土曜など)に働いた分は、休日割増ではなく時間外の扱いになります。就業規則で「日曜を法定休日とする」と決めている会社が多いので、ここも一度確認しておきましょう。

割増率は「3つ」だけ覚える

割増賃金が必要になる3つの場面(時間外・深夜・休日)を、夕方の残業・真夜中の勤務・休日出勤の3つの情景で並べて示した図
割増が付くのはこの3場面。重なった日は、率を足して考えます

割増率の表は、あちこちで見かけるわりに覚えにくいですよね。でも、覚えるのは3つだけです。

どんな労働か割増率(法律上の最低)
時間外(1日8時間・週40時間を超えた分)25%以上
深夜(午後10時〜午前5時)25%以上
法定休日(週1日の休日に働いた分)35%以上

これに、ひとつだけ追加があります。

1か月60時間を超えた時間外50%以上

この「60時間超は50%」は、以前は大企業だけのルールでした。2023年4月1日から、中小企業にも適用されています。「うちは中小だから関係ない」という前提で運用していた会社は、ここが盲点になりやすいところです。

重なった日は、率を足す

夜遅くまでの残業や、休日の夜勤。深夜と重なると、率は足し算になります。

重なり方合計の割増率計算の内訳
時間外 + 深夜50%以上25% + 25%
時間外(60時間超)+ 深夜75%以上50% + 25%
法定休日 + 深夜60%以上35% + 25%

覚え方はシンプルで、深夜の25%は、いつでも上に乗る。これだけです。

なお、法定休日と時間外は重ねません。法定休日の労働は、何時間働いても丸ごと35%です。休日に10時間働いても「8時間分は35%、超えた2時間は35%+25%」にはなりません。ここは足し算しない、と覚えておいてください。

意外な落とし穴:管理職でも深夜は付く

「課長は管理職だから残業代は付けていません」——中小企業でよく聞く運用です。

労働基準法上の管理監督者(実態として経営者と一体的な立場にある人)に当たるなら、時間外と休日の割増は不要です。ただし、深夜の割増は、管理監督者にも必要です。ここは例外なので、深夜まで働くことがある役職者がいる会社は、一度確認しておくと安心です。

(そもそも「管理監督者に当たるかどうか」は、役職名ではなく実態で判断されます。判断に迷うときは、社会保険労務士に一度見てもらうのが確実です。経理がひとりで決める話ではありません。)

ステップ①:1時間あたりの単価を出す

ここが、いちばん間違えやすいところです。そして、間違えても給与ソフトは教えてくれないところでもあります。

月給制の場合、時間単価はこう出します。

時間単価 = 割増賃金の基礎となる月給額 ÷ 1か月平均所定労働時間数

分子と分母、どちらにも注意点があります。順番に見ます。

分母:1か月平均所定労働時間数

「その月の労働時間」ではなく、年間を平均した1か月あたりの所定労働時間を使います。月ごとに営業日数が違っても、単価がぶれないようにするためです。

(365日 - 年間所定休日数)× 1日の所定労働時間 ÷ 12

たとえば、年間所定休日が120日、1日の所定労働時間が8時間の会社なら、

これが分母です。この数字は、年に1回出せば1年間使えます。年度が替わって会社カレンダーが確定したら、まず計算して、給与ソフトの設定と一致しているか見ておく。それだけで、1年分の安心が買えます。

(うるう年は365日を366日に置き換えます。次のうるう年は2028年です。)

分子:外せる手当は7つだけ

ここが本題です。月給の全額に割増をかけるわけではありません。割増賃金の基礎から外せる手当が、法律で決まっています。

基礎から外せる(7つ)
① 家族手当
② 通勤手当
③ 別居手当
④ 子女教育手当
⑤ 住宅手当
⑥ 臨時に支払われた賃金(結婚祝金など)
⑦ 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)

大事なのは、この7つは「限定列挙」だということです。ここに載っていない手当は、外せません。

「基本給以外は全部除く」と思い込んで単価を出していると、残業代が不足します。ここは、明細の支給欄を上から一行ずつ見て、7つに当たるかどうかを○×で書き込むのが確実です。一度やれば、あとは同じ判定を使い回せます。

さらに落とし穴:名前ではなく「中身」で見る

7つに名前が載っていても、支給のしかたによっては外せないことがあります。

手当の名前支給のしかた外せる?
家族手当扶養家族の人数に応じて支給外せる
家族手当家族の有無に関係なく全員に一律1万円外せない
住宅手当家賃や住宅ローンの額に応じて支給外せる
住宅手当持ち家・賃貸を問わず全員に一律1万5千円外せない

判断の軸は、「その人の個別の事情に応じて金額が変わるか」です。誰にでも同じ額が出るものは、実質的に基本給の一部とみなされます。

自社の手当がどちらか、給与規程を見れば大体わかります。「一律」という言葉が出てきたら、いったん立ち止まる。これだけ覚えておいてください。

実際に出してみる

条件を置いて、計算してみます。

項目金額基礎に含める?
基本給250,000円含める
役職手当20,000円含める(7つに入らない)
家族手当(扶養人数に応じて支給)10,000円外す
通勤手当15,000円外す
総支給295,000円

基礎となる月給額は、250,000 + 20,000 = 270,000円

1か月平均所定労働時間を先ほどの163.33時間とすると、

270,000円 ÷ 163.33時間 = 1,653.06…円 → 1,653円

円未満の端数(0.06円)は、後述のルールで切り捨てました。これが、この人の1時間あたりの単価です。

もし通勤手当と家族手当を外し忘れて295,000円で割ると、単価は約1,806円。1時間あたり150円ほど高く出ます。多く払うぶんには法律違反ではありませんが、社長に金額の根拠を聞かれたときに説明できなくなります。逆に、役職手当を外してしまうと不足になり、これは是正が必要です。外す方向の間違いにだけは、気をつけてください。

ステップ②:時間数を数える(端数の決まり)

3つ目のかけ算の相手、時間数です。ここには端数処理の決まりがあります。

1日ごとに切り捨てるのは、できません

「毎日15分未満は切り捨て」「1日単位で30分未満は0にする」——これは認められていません。日々の労働時間は、1分単位で把握するのが原則です。

小さな話に見えますが、毎日10分ずつ切り捨てると、月20日で200分=3時間以上になります。積み上がると大きいので、勤怠システムの丸め設定は一度見ておく価値があります。

1か月の合計なら、30分単位で処理できる

一方で、事務の負担を考えた例外が認められています。

何の端数か認められる処理
1か月の時間外・深夜・休日の各合計時間数に生じた1時間未満の端数30分未満は切り捨て、30分以上は1時間に切り上げ
1時間あたりの賃金額・割増賃金額に生じた円未満の端数50銭未満は切り捨て、50銭以上は1円に切り上げ
1か月の割増賃金の合計額に生じた100円未満の端数50円未満は切り捨て、50円以上は100円に切り上げ

ポイントは、どれも「切り捨てだけ」ではなく「切り上げ」とセットだということです。切り捨てだけを採用すると、認められた処理から外れてしまいます。

そして、時間外・深夜・休日は別々に合計します。「全部足して30分未満だから切り捨て」ではなく、それぞれの合計に対して判定します。

計算してみる

さきほどの単価1,653円の人が、こんな1か月を過ごしたとします。

順番に出します。

① 時間外 20時間

1,653円 × 1.25 × 20時間 = 41,325円

② 深夜の上乗せ 3時間分 深夜の3時間は、①ですでに1.25倍が計算されています。足りないのは深夜の0.25だけなので、上乗せ分を出します。

1,653円 × 0.25 × 3時間 = 1,239.75円 → 1,240円(50銭以上は切り上げ)

③ 法定休日 8時間

1,653円 × 1.35 × 8時間 = 17,852.4円 → 17,852円(50銭未満は切り捨て)

合計:41,325 + 1,240 + 17,852 = 60,417円

深夜の部分を「1.5倍で20時間ぶん」などとまとめて計算しようとすると、必ずどこかで混乱します。基本の率でいったん全部出してから、深夜の0.25だけを別に足す。この順番にすると、電卓でも間違えません。

1か月60時間を超えたとき

繁忙期に、時間外が60時間を超えることがあります。ここだけ、率が変わります。

さきほどの人が、ある月に時間外70時間だったとします。

① 60時間までの分

1,653円 × 1.25 × 60時間 = 123,975円

② 60時間を超えた10時間の分

1,653円 × 1.50 × 10時間 = 24,795円

合計:148,770円

もし全部を1.25倍で計算していたら144,637.5円(→144,638円)。差は約4,100円です。1人・1か月でこの額なので、見落としが続くと積み上がります。

60時間のカウントに入るもの・入らないもの

「うちは休日出勤が多いから60時間なんてすぐ超える」と思っていたら、実は法定休日の分は入らなかった——ということもあります。自社の法定休日がどの曜日か、ここでもう一度効いてきます。

代替休暇という選択肢もあります

60時間を超えた部分の割増(25%の上乗せ分)は、有給の休暇を与えることで代えることもできます(代替休暇)。導入には労使協定が必要で、本人が休暇を選ぶかどうかも本人の意思によります。

制度としては用意されていますが、ひとり経理の会社で急いで入れるものではありません。「そういう仕組みもある」とだけ頭の隅に置いて、必要になったら社会保険労務士に相談すれば十分です。

そもそも、上限があります

計算の話とは別に、時間外労働そのものに上限があります。36協定(サブロク協定)を結んでいても、原則は月45時間・年360時間まで。特別条項をつけても、年720時間・複数月平均80時間以内・単月100時間未満・月45時間を超えられるのは年6回まで、という枠があります。

(建設業・自動車運転の業務・医師などは適用が猶予されていましたが、2024年4月から猶予が終了し、上限規制の対象になっています。「うちの業種は対象外」という古い前提のままになっていないか、一度確かめておきましょう。)

経理は「時間を管理する立場」ではないかもしれません。それでも、毎月いちばん早く残業時間を見る人であることは確かです。数字が45時間に近づいてきたら、計算の前に一言そえる。それは越権ではなく、会社を守る仕事です。

固定残業代(みなし残業代)がある会社は

「営業手当3万円に残業代を含んでいます」——この形の会社も多いですよね。

固定残業代は制度として認められていますが、有効になるための条件があります。

3つ目がいちばん大事です。「固定残業代を払っているから、何時間残業しても追加はなし」は成り立ちません。毎月、実際の残業時間が固定分の時間を超えていないか確認し、超えた分は上乗せして払う。ここまでがワンセットです。

実務としては、こう回すのが現実的です。

  1. 給与規程で、固定残業代が何時間分かを確認する(例:営業手当30,000円=時間外20時間分)
  2. 毎月、実際の時間外が20時間を超えていないか見る
  3. 超えていたら、超過分だけを通常どおり計算して足す

そして、明細には固定残業代と超過分を別の行で表示します。これは本人への説明のためでもありますが、いちばんは自分のためです。翌年、自分がこの明細を見返したときに、何がどう計算されたか一目でわかります。

経理だから気づける、残業代の「その先」

ここからは、給与担当ではなく経理の視点です。残業代は、給与計算が終わったあとにも影響します。

① 社会保険料には影響する。でも、随時改定の対象にはならない

残業代は、社会保険の標準報酬月額を決めるときの報酬に含まれます。だから、4〜6月の残業が多いと、算定基礎届で決まる標準報酬月額が上がります。

ただし、残業代が増えただけでは月額変更届(随時改定)の対象にはなりません。随時改定は「固定的賃金の変動」がきっかけになる仕組みで、残業代のような変動的な賃金の増減だけでは要件を満たさないからです。ここは混同しやすいので、覚えておくと迷いません。

② 労働保険の年度更新では、賃金総額に入る

労働保険の年度更新で申告する賃金総額には、残業代も当然に含まれます。年間の集計を出すとき、残業代だけ別集計になっていて足し忘れる——という取り違えが起きやすいところです。

③ 未払残業代の時効は3年

賃金の請求権の消滅時効は、当分の間3年とされています(本来は5年ですが、経過措置として3年で運用されています)。つまり、過去3年分をさかのぼって請求される可能性があるということです。

これは、脅すために書いているのではありません。逆です。いま計算方法を確かめておけば、その3年は「大丈夫だった3年」になります。今日この記事を読んでいる時点で、いちばん大変な部分はもう終わっています。

残業代チェックリスト

年に1回(できれば年度替わりに)、上から見ていってください。

単価の土台を確かめる

社内のルールを確かめる

毎月の計算で確かめる

そのあとで確かめる

明日やること(まず1つだけ)

全部を一度に確かめようとすると、それだけで手が止まります。明日やることは、ひとつで十分です。

自社の「1か月平均所定労働時間」を、電卓で1回出してみる。

年間所定休日数は、会社カレンダーの休みを数えれば出ます。1日の所定労働時間は、就業規則か雇用契約書に書いてあります。(365 - 休日数)× 所定時間 ÷ 12。これだけです。

出した数字を、給与ソフトの設定画面と見比べてください。一致していれば、あなたの会社の残業代の土台は正しいということです。それがわかるだけで、次に社長に聞かれたとき、根拠を持って答えられます。

余力があれば、給与明細の支給欄を1行ずつ見て、「基礎に含める/外す」を書き込んだメモを1枚作っておいてください。次に手当が新設されたとき、この1枚が判断を助けてくれます。年間の段取り全体を見直すなら、経理の年間スケジュールと一緒に置いておくと見つけやすくなります。

最後に

残業代の計算は、地味な仕事です。正しく計算できて当たり前で、褒められることはほとんどありません。それでも、間違えると人の生活に直接ひびきます。

残業代の計算の根拠を確かめ終えて、集計表から顔を上げ、落ち着いた表情でひと息ついているひとり経理の担当者

だからこそ、この仕事には意味があります。遅くまで働いた人が、その分をきちんと受け取れること。休日に出てきた人が、それに見合う金額を見られること。その当たり前を支えているのが、締め日の夜に電卓を打っているあなたです。

覚えることは、思ったより少なかったはずです。単価 × 割増率 × 時間数。 単価は月給から7つの手当を外して所定時間で割る。割増率は25%・25%・35%と、60時間超の50%。時間数はそれぞれ別に合計する。

全部を今日覚えなくて大丈夫です。まずは1か月平均所定労働時間をひとつ出す。それだけで、この記事の半分は自分のものになっています。細かい率は、また見に来てください。ここで一緒に確かめられます。

本記事は一般的な実務情報です。割増賃金の計算方法・割増率・端数処理の取扱い、管理監督者の範囲、固定残業代の有効性、時間外労働の上限規制は、個別の就業規則・労使協定の内容や制度改正によって変わります。最終的な判断は、厚生労働省・所轄の労働基準監督署の最新の案内や、顧問の社会保険労務士・税理士にご確認ください。

よければ、こちらも

関連用語