
労働保険の年度更新|7月10日までにやる確定・概算保険料の計算
「労働保険の年度更新、今年も封筒が届いたな……。でも、書くのは去年1年分の給料の合計だっけ、それとも今年の見込みだっけ。確定と概算って、両方いっぺんに計算するんだったか」 毎年6〜7月に一度だけ触る手続きだから、いざ緑色の申告書を前にすると、去年のやり方をなかなか思い出せませんよね。しかも申告・納付は7月10日まで。カレンダーを見て「あと少ししかない」と、少し肩に力が入ってしまう——給与も社会保険も一人で回していると、この年に一度の作業ほど、静かにプレッシャーがかかります。
でも、ここで迷うのは、あなたが手を抜いているからではありません。年度更新は「去年の精算」と「今年の前払い」を1枚の申告書でまとめてやるため、頭の中で2つの年度が行き来して、こんがらがりやすくて当たり前なのです。逆に言えば、「昨年度の確定」と「今年度の概算」は別ものだと切り分けてしまえば、あとは同じ賃金総額に率をかけるだけの、落ち着いた作業になります。
この記事では、次に申告するまでにやることを、順番にそって一つずつ分解します。今日は制度を丸暗記する必要はありません。まずは「昨年度1年分に支払った賃金を集める」——その最初の一手までを、一緒に確認していきましょう。
結論:労働保険の年度更新は、労災保険と雇用保険をまとめた「労働保険料」を、1年に1回精算し直す手続きです。1枚の申告書で、①昨年度(前年4月1日〜3月31日)に実際に支払った賃金総額から出す「確定保険料」 と、②今年度(4月1日〜翌年3月31日)の見込み賃金から出す「概算保険料」 の2つを計算します。前年に前払いした概算と確定の差額を精算し、今年度の概算を上乗せして納めるのが基本の形です。申告・納付の期間は毎年6月1日〜7月10日(期限が土日祝のときは翌開庁日)。まずは昨年度1年分の賃金台帳を用意して、支払った賃金の合計を出すところから始めれば大丈夫です。
いま何が起きているか:「精算」と「前払い」を1枚でやる手続き
細かい記入に入る前に、この手続きが「何のためにあるのか」をざっくり見ておきましょう。ここが頭に入ると、なぜ2つの金額を計算するのかが見えてきます。
労働保険料は、社会保険(健康保険・厚生年金)とちがって、年度のはじめに「今年はこれくらい賃金を払うだろう」という見込みで概算保険料を先に納め、年度が終わってから実際の賃金で精算するという、前払い+あとで精算のしくみです。だから毎年この時期に、
- 昨年度ぶん:前もって払った概算保険料と、実際に払った賃金で計算した「確定保険料」の差額を精算する
- 今年度ぶん:新しい1年分の「概算保険料」を先に納める
——この2つを1枚の申告書(労働保険 概算・確定保険料申告書)でまとめて処理します。過去の実績を確定させながら、次の1年分を前払いする。そう考えると、頭の中の2つの年度が少し整理できませんか。

まず土台:賃金総額を正しく集める
年度更新の計算は、むずかしい理屈より先に「賃金総額をいくらにするか」でほぼ決まります。ここがずれると、確定も概算も全部ずれてしまうので、いちばん時間をかけたいところです。
賃金総額とは、昨年度(前年4月1日〜3月31日)の1年間に、労働者に“支払った”賃金の合計です。基準は「働いた期間」ではなく「支払った月」。含める・含めないの目安は次のとおりです。
- 含める:基本給、残業手当、通勤手当、役職手当、家族手当、住宅手当などの各種手当、賞与(ボーナス)。通勤手当や賞与も含めるのがポイントで、ここは社会保険の算定と感覚が違うので迷いやすい部分です。
- 含めない:役員報酬(労働者として働いていない役員分)、退職金、慶弔見舞金、出張旅費・宿泊費などの実費弁償、傷病手当金などの保険給付。
さらに、労災保険と雇用保険で「対象になる人」が少し違う点にも注意します。
- 労災保険の賃金総額:パート・アルバイトも含め、雇っている労働者全員分を集計します。
- 雇用保険の賃金総額:雇用保険に入っている人だけ(週の労働時間が短く未加入のパートなどは除く)を集計します。
そのため、労災と雇用で賃金総額が一致しないことはよくあります。「合わないのは間違い」ではないので、慌てずにそれぞれの範囲で集計しましょう。1年分の賃金台帳を月ごとに縦に並べ、上から合計していくのがいちばん確実です。
手順:確定 → 概算 → 精算の順で計算する
賃金総額がそろったら、あとは順番どおりに進めれば大丈夫です。率のかけ算がメインなので、電卓(または表計算)を用意しましょう。
① 昨年度の「確定保険料」を出す 昨年度の賃金総額に、労災保険率(業種ごとに決まっている)と雇用保険率をかけて、確定保険料を計算します。料率は毎年見直される可能性があるため、必ず厚生労働省の最新の「労災保険率表」「雇用保険料率」で、昨年度に適用される率を確認してください。雇用保険は「労働者負担分」と「事業主負担分」に分かれ、労働者負担分は毎月の給与から預かっている前提です。
② 差額を精算する ①で出した確定保険料と、昨年度のはじめに前払いした概算保険料を比べます。
- 確定 > 概算(払い足りなかった)→ 不足分を今回追加で納めます。
- 確定 < 概算(払いすぎていた)→ 差額は、原則として今年度の概算保険料に充当(相殺)します。
③ 今年度の「概算保険料」を出す 今年度(4月1日〜翌年3月31日)に支払う見込みの賃金総額を出し、今年度に適用される料率をかけます。見込み賃金は、前年度の確定賃金総額とおおむね同じ(増減が2分の1以上〜2倍以下の範囲)なら、前年度の確定額をそのまま使ってよいとされています。大きく増減する見込みがなければ、①で使った昨年度の賃金総額を流用できるので、ここは実務上ぐっと楽になります。
④ 納める額をまとめる 「今年度の概算保険料」+「昨年度の精算(不足なら加算/過納なら充当)」+「一般拠出金(石綿健康被害救済のための拠出。確定賃金総額にごく低い率をかけたもの)」を合わせたものが、今回申告・納付する金額です。申告書には各欄の数字を転記し、計算が合っているか通しで見直します。
⑤ 期限までに申告・納付する 提出先は、所轄の労働局・労働基準監督署、または金融機関の窓口(電子申請は e-Gov/GビズID から可能)。納付は金融機関・口座振替・電子納付などが選べます。申告・納付の期間は6月1日〜7月10日です。
概算が高額なら「延納(分割)」も選べる
「今年度の概算保険料を一括で払うのは資金繰りがつらい」というときは、延納(分割納付)という選択肢があります。年度更新の資金負担を平らにできる、知っておくと安心なしくみです。
- 概算保険料が40万円以上(労災保険または雇用保険のどちらか一方のみ成立している事業は20万円以上)、または労働保険事務組合に事務委託している場合、年3回に分けて納付できます。
- 分割の各納期は、おおむね第1期=7月、第2期=10月末、第3期=翌年1月末が目安です(期限が休日のときは翌開庁日。正確な期日は申告書・通知でご確認ください)。
- 延納を選ぶときは、申告書の延納の欄にその旨を記入します。
「一括だと重いな」と感じたら、無理せず延納を検討してかまいません。分割できると知っているだけで、7月の資金繰りの気持ちが少し軽くなります。
申告する前のチェックリスト
「全部を完璧に暗記」ではなく、申告書を出す前に上から順に確認できる形にしました。できるところまでで十分です。
【賃金総額をそろえる】
- 昨年度(前年4月〜3月)1年分の賃金台帳を用意したか
- 「支払った月」基準で、残業・通勤手当・賞与まで含めて合計したか
- 役員報酬・退職金・慶弔金・実費の旅費を含めていないか
- 労災は「全労働者」、雇用は「被保険者だけ」で分けて集計したか
【確定・概算を計算する】
- 昨年度に適用される最新の労災保険率・雇用保険率を厚労省サイトで確認したか
- 確定保険料と前払いした概算保険料の差額(精算)を出したか
- 今年度の見込み賃金(前年とおおむね同額なら流用可)で概算を出したか
- 一般拠出金を計算に入れたか
【申告・納付】
- 概算が高額なら延納(3回分割)を使うか検討したか
- 提出先(労働局・監督署/電子申請)と納付方法を決めたか
- 7月10日までに申告・納付できる状態か
明日やること(まず1つだけ)
全部を一度に終わらせようとすると、それだけで気が重くなります。 明日やることは、「昨年度1年分の賃金台帳を開いて、月ごとの支払賃金を縦に並べ、1年分の合計を1つ出す」だけで十分です。
賃金総額さえ確定してしまえば、あとは最新の料率をかけて、去年の概算と差額を出し、今年の概算を乗せるだけ。いちばん時間のかかる「賃金を集める」を先に片づけてしまえば、年度更新の山はほぼ越えたようなものです。
最後に
労働保険の年度更新は、年に一度しか触らないのに「去年の精算」と「今年の前払い」を一度に仕上げなければならなくて、しかも期限が短い——静かに気をつかう手続きです。給与計算も社会保険も一人で背負いながら、6〜7月というただでさえ忙しい時期に、もう一つ大きな作業を積み上げているのは、本当に骨の折れることだと思います。

でも、これは「一度で完璧に覚える試験」ではありません。賃金総額を集め、確定と概算を分けて計算し、差額を精算して前払いを乗せる。この流れを一度つかんでしまえば、来年の6〜7月は今年よりずっと楽になります。今日、「確定と概算は別ものだ」とひとつ頭に入ったなら、それはもう「なんとなく去年をなぞる作業」が「わかって進める作業」に変わり始めた証拠です。完璧でなくて大丈夫。今日ここまで読めたところまでで、十分前に進んでいます。
本記事は一般的な実務情報です。労災保険率・雇用保険料率や、延納の要件・一般拠出金の率などは毎年見直され、業種や個別の事情によっても異なります。最終的な判断は、厚生労働省・所轄の労働局/労働基準監督署の最新情報や、顧問社会保険労務士・税理士にご確認ください。
よければ、こちらも
- 7月に重なるもう一つの年に一度の社会保険の手続きは、算定基礎届の書き方|7月10日までの定時決定を落ち着いて出すで整理しています。
- 毎月の給与から預かる保険料の引き方は、社会保険料・雇用保険料の控除と納付のタイミングからどうぞ。
- 給与計算そのものを整えたいときは、給与計算の基本|総支給から手取りまでの流れもあわせてどうぞ。ほかの実務の手順も、記事一覧から少しずつ一緒に整理していきましょう。