
通勤手当の非課税限度額|給与計算での扱いを一緒に整理
「通勤手当って、全部そのまま払えばいいんだよね……?」 給与計算をしていて、ふとこの手当の欄で手が止まったことはありませんか。定期代を実費で払っている人、マイカーで通っている人、電車とバスを乗り継いでいる人——通勤の仕方は人それぞれで、「これ、どこまで所得税がかからないんだっけ」と確かめたくなる。しかも調べていくと、「税金は非課税なのに、社会保険料の計算には入れる」という話が出てきて、余計にこんがらがってきますよね。
でも、ここで迷うのは、あなたの理解が足りないからではありません。通勤手当は「所得税のルール」と「社会保険料・雇用保険料のルール」で扱いが違うという、そもそも二重構造になっている項目なのです。だから、片方だけ覚えると必ずどこかで矛盾してつまずきます。逆に言えば、「税では限度額まで非課税」「社保では全額ふくめる」という2本立てさえ押さえれば、通勤手当の処理はもう迷いません。
この記事では、通勤手当の非課税限度額を、公共交通機関とマイカー通勤に分けて整理し、そのうえで給与計算での正しい引き方までを順番に見ていきます。今日は金額を全部暗記する必要はありません。まずは「どこを見て、何と何を分けるのか」という地図を、一緒に作っていきましょう。
結論:通勤手当には、所得税がかからない上限=非課税限度額があります。①電車・バスなど公共交通機関は、最も経済的で合理的な経路の運賃で、1か月あたり15万円までが非課税。②マイカー・自転車などは、片道の通勤距離に応じた月額の限度額が決まっています。限度額を超えた分は「課税通勤費」として、その月の給与に上乗せして所得税を計算します。一方で社会保険料・雇用保険料の計算では、非課税分もふくめた通勤手当の全額を報酬・賃金に含めます。「税は限度額まで非課税/社保は全額対象」——この違いだけ、はっきり分けて覚えてください。
まず全体像:通勤手当には「3つの顔」がある
細かい金額に入る前に、通勤手当が給与計算のどこに効くのかを、3つの側面で見ておきましょう。ここが頭に入ると、なぜ扱いがややこしく感じるのかが見えてきます。

- 支給としての顔:通勤手当は総支給額に含めます。手取り計算の「足す側」の一員です。
- 所得税としての顔:ここが特別で、非課税限度額までは所得税の課税対象から外します(=非課税)。超えた分だけが課税されます。
- 社会保険料・雇用保険料としての顔:こちらは非課税分もふくめて全額が計算のもとになります。所得税の「非課税」は、社保の世界には持ち込めません。
つまり通勤手当は、「支給には全額入れる」「所得税では限度額まで外す」「社保・雇用保険では全額入れる」という三段構え。難しく感じるのは当然で、3つの制度が別々のルールで見ているからです。だから次は、いちばん問い合わせの多い「所得税の非課税限度額」から、通勤の種類ごとに分けて見ていきます。
パターン1:電車・バスなど公共交通機関(上限は月15万円)
定期券やICカードで電車・バス通勤している人は、考え方がシンプルです。
「最も経済的で合理的な通勤経路・方法」で計算した運賃・料金が、1か月あたり15万円までなら全額非課税になります。多くの中小企業の通勤手当は、この15万円の枠にすっぽり収まるので、実務では「実費(定期代)を非課税でそのまま支給」で済むケースがほとんどです。
ここで確認しておきたいポイントは3つです。
- 「最も経済的で合理的な経路」であること。たとえば、遠回りの新幹線通勤や、明らかに割高なルートで申請されている場合は、そのままでは非課税にできないことがあります。通勤経路の申請書と定期券の区間が合っているかを、一度見ておくと安心です。
- 上限は「1か月あたり」15万円。3か月定期・6か月定期をまとめて支給する場合は、1か月あたりに割り戻して判定します。
- グリーン料金は対象外。快適さのための追加料金は「経済的・合理的」に含まれないため、非課税の対象にならないのが原則です。
新幹線の運賃(乗車券部分)は「経済的・合理的」と認められれば非課税の対象になり得ますが、判断に迷うケースもあります。高額な通勤手当や特殊な経路の人がいるときは、自己判断で抱え込まず、税務署や顧問税理士に「この経路で非課税にして大丈夫か」を一度確認しておくと確実です。
パターン2:マイカー・自転車など(距離に応じた月額の限度額)
車や自転車、バイクで通勤している人は、片道の通勤距離に応じて、月額の非課税限度額が決まっています。国税庁が定める距離区分ごとの金額を使います。

片道の通勤距離と、1か月あたりの非課税限度額の対応は次のとおりです。
| 片道の通勤距離(1か月あたり) | 非課税となる限度額(月額) |
|---|---|
| 2km未満 | 全額課税(非課税なし・0円) |
| 2km以上 10km未満 | 4,200円 |
| 10km以上 15km未満 | 7,100円 |
| 15km以上 25km未満 | 12,900円 |
| 25km以上 35km未満 | 18,700円 |
| 35km以上 45km未満 | 24,400円 |
| 45km以上 55km未満 | 28,000円 |
| 55km以上 | 31,600円 |
読み取るときのポイントは2つです。
- 距離は「片道」で見る。往復ではありません。ここを往復で見てしまうと区分がずれます。
- 2km未満は非課税ゼロ。近距離で車通勤している人に通勤手当を出す場合、その全額が課税対象になります。「少額だから」と非課税扱いにしないよう注意します。
この限度額は据え置きが続いている表ですが、税制改正で見直される可能性はゼロではありません。年度替わりや、久しぶりにこの表を使うときは、国税庁のタックスアンサー(No.2585)で最新の金額かどうかを一度確かめておくと安心です。
なお、電車・バスとマイカーを併用している人(駅まで車、そこから電車など)は、公共交通機関の運賃と、マイカー部分の距離別限度額を合算して判定します。この場合も合計の上限は月15万円です。
限度額を超えたら:超えた分だけを「課税通勤費」にする
通勤手当が非課税限度額を超えたとき、よくある誤解が「全額が課税になる」というものです。そうではありません。超えた分だけが課税対象になります。
たとえば、片道3km(限度額4,200円)のマイカー通勤者に、会社が月6,000円の通勤手当を出しているとします。
- 非課税分:4,200円(限度額まで)
- 課税分:6,000円 − 4,200円 = 1,800円
この1,800円だけを、その月の課税対象の給与に上乗せして所得税を計算します。給与ソフトを使っていれば、通勤手当の「課税」「非課税」を分けて登録する欄があり、自動で振り分けてくれます。手計算のときは、「通勤手当のうち限度額を超えた分は、基本給などと同じ課税側に足す」と覚えておけば迷いません。
大事なのは、支給額そのものは6,000円のままだということ。非課税・課税は「所得税をどう計算するか」の話であって、従業員に振り込む金額を減らすわけではありません。ここを混同しないようにしましょう。
ここが最大の落とし穴:社会保険料・雇用保険料は「全額」が対象
通勤手当のいちばん迷いやすいところが、ここです。所得税で非課税になった分も、社会保険料と雇用保険料の計算では、通勤手当の全額を含めます。
- 社会保険料:標準報酬月額を決める「報酬」には、通勤手当(非課税分もふくむ)が含まれます。だから、入社時や算定基礎届で標準報酬を決めるときは、通勤手当を足した金額で見ます。通勤手当が大きい人は、そのぶん標準報酬のランクが上がることがあります。
- 雇用保険料:その月の「賃金総額」に通勤手当(全額)を含めて、料率を掛けます。
「所得税では非課税なのに、社保では報酬に入る」——この一見矛盾する扱いが、通勤手当を難しく感じさせる正体です。理由はシンプルで、制度ごとに「何を対象にするか」の定義が違うだけ。所得税は「担税力(税を負担する力)」を見るので実費弁償的な通勤費を外し、社会保険は「労働の対償として受けるもの」を広く報酬とみなすため通勤手当も含める、という考え方の違いです。
実務では、「所得税だけ非課税、社保・雇用保険は全額」と唱えるだけで大丈夫です。給与ソフトなら、通勤手当を正しく「課税/非課税」で登録しておけば、所得税と社保でそれぞれ適切に扱ってくれます。
早見表:通勤手当を「どの計算に、いくら入れるか」
混乱したら、この表に戻ってきてください。同じ通勤手当でも、計算の種類ごとに「入れる金額」が違います。
| 計算の種類 | 通勤手当をいくら含めるか | ひとことメモ |
|---|---|---|
| 総支給額(振込のもと) | 全額 | 支給には常に全額を入れる |
| 所得税(源泉徴収) | 限度額を超えた分だけ | 限度額までは非課税 |
| 社会保険料(標準報酬) | 全額(非課税分もふくむ) | 標準報酬のランクに影響 |
| 雇用保険料(賃金総額) | 全額(非課税分もふくむ) | その月の総額に含めて料率を掛ける |
こうして並べると、通勤手当を「一部だけ外す」のは所得税のときだけで、あとは全部そのまま入れる、というのが見えてきます。この非対称さを1枚で持っておくと、毎月の給与計算で迷わなくなります。
計算例:ひとつ通して追ってみる
数字で流れを追うと、非課税と課税の分かれ目が腹落ちします。以下は考え方を示すための仮の例で、実際の料率・税額はあなたの会社の標準報酬や最新の表で変わります。
- 通勤手当(マイカー・片道12km)の支給額:月10,000円
- 片道12kmの非課税限度額:7,100円(表の「10km以上15km未満」)
- 課税される通勤費:10,000円 − 7,100円 = 2,900円
このとき、
- 総支給:通勤手当は10,000円まるごと含める。
- 所得税:課税対象の給与に、通勤手当のうち2,900円だけを上乗せして税額表を引く。
- 社会保険料・雇用保険料:通勤手当10,000円を全額、報酬・賃金総額に含めて計算する。
同じ「10,000円」という数字が、計算の種類によって「10,000円」「2,900円」「10,000円」と姿を変える——これが通勤手当のいちばんの特徴です。給与計算全体の順番をおさらいしたいときは、給与計算の基本|総支給から手取りまでの流れもあわせてどうぞ。
よくあるつまずきポイント
毎月の作業で「あれ?」となりやすいところを、先回りで挙げておきます。
- 通勤手当は全額非課税だと思っている:限度額があります。とくにマイカー通勤や高額な定期は超えることがあります。
- 限度額を超えたら全額課税だと思っている:超えた分だけが課税です。全部を課税側に入れないように。
- 距離を往復で見てしまう:マイカーの距離区分は「片道」です。
- 2km未満に非課税を認めてしまう:2km未満のマイカー通勤手当は全額課税です。
- 所得税の非課税分を社保からも外してしまう:社会保険料・雇用保険料は非課税分もふくめて全額対象です。
- 3か月・6か月定期を1か月に割り戻していない:15万円の判定は1か月あたりで見ます。
どれも「税と社保でルールが違う」ことを知らないと起きるもので、あなたの注意不足ではありません。一度この違いを持てば、同じ場所で止まらなくなります。
通勤手当のチェックリスト
「全員ぶん、全項目を毎月」とやると大変なので、まず最低ラインの3点を押さえれば芯は外しません。あとは該当者がいるときだけです。
【最低ライン・これだけは押さえる】
- 通勤手当を、総支給には全額入れているか
- 所得税の計算で、限度額を超えた分だけを課税側に入れているか
- 社会保険料・雇用保険料には、通勤手当を全額ふくめているか
【該当者がいるときだけ】
- マイカー通勤者:片道距離を確認し、正しい区分の限度額を使っているか(2km未満は全額課税)
- 電車・バス通勤者:経路が「経済的・合理的」で、1か月あたり15万円以内か
- 3か月・6か月定期をまとめ支給した人:1か月あたりに割り戻して判定したか
- 通勤手当や通勤経路が変わった人:非課税限度額と社保の標準報酬への影響を見直したか
【年に一度・見直しどき】
- マイカー通勤の距離別限度額が、国税庁の最新の表と一致しているか
明日やること(まず1つだけ)
全部を一度に完璧にしようとすると、気が重くなります。 明日やることは、「通勤手当を受け取っている従業員を1人選び、その人の通勤手当が『所得税で非課税限度額を超えていないか』だけを確かめる」——これで十分です。
公共交通機関なら15万円以内か、マイカーなら片道距離の区分に対して支給額が収まっているか。1人分をたどり切れたら、通勤手当の非課税のしくみは、もうあなたの中にできています。あとは他の人にも同じ物差しを当てるだけです。
最後に
通勤手当は、金額こそ小さく見えても、「税では一部を外し、社保では全部を入れる」という、制度をまたいで考える必要のある、地味に気をつかう項目です。それをひとりで正しく振り分けて毎月回しているのは、本当に丁寧な仕事だと思います。

でも、これは「一発で全部覚える試験」ではありません。「税は限度額まで非課税、社保は全額対象」——この一本の軸さえ持てれば、あとは表を見ながら落ち着いて振り分けられます。 今日、通勤手当の二重構造がひとつ頭に入ったなら、それはもう「なんとなく処理」が「根拠を持って処理」に変わり始めた証拠です。完璧でなくて大丈夫。今日たどれたところまでで、十分前に進んでいます。
本記事は一般的な実務情報です。非課税限度額や取扱いは税制改正や個別の事情で変わることがあります。最終的な判断は、国税庁の情報や、顧問税理士・社会保険労務士にご確認ください。
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