
中途入社者の年末調整|前職の源泉徴収票を合算する手順と確認点
「そういえば、7月に入ったあの人。前の会社の分って、年末調整でどうするんだっけ」 給与明細の締めをしながら、ふと手が止まる瞬間がありますよね。自社で払った給与のことならわかる。でも、よその会社が払った給与まで自分が計算に入れるの?と思うと、急に不安になります。
ここで迷うのは、あなたが不慣れだからではありません。中途入社の人の年末調整は、毎年いるとは限らないので、やり方を思い出す機会そのものが少ないのです。しかも「前職の分」という、自分の手元にない数字を扱うので、身構えるのは自然なことです。
でも、安心してください。やることの中心は、前の会社の源泉徴収票から3つの数字を読み取って、自社の分に足すことです。この記事では、どの数字を足すのか、書類が届かないときはどうするのか、最後に作る源泉徴収票に何を書くのかまで、順番に整理します。一緒に確認していきましょう。
結論:年の途中で入社し、年末まで在籍していて、自社に扶養控除等申告書を出している人は、前職の分も含めて自社で年末調整します。前職の源泉徴収票から ①支払金額 ②源泉徴収税額 ③社会保険料等の金額 の3つを自社分に足し、合計で年税額を計算して精算します。前職の源泉徴収票がそろわないときは、年末調整に前職分を入れられないので、自社分だけの源泉徴収票を渡し、本人に確定申告をお願いする形になります。だからこそ、10月のうちに「前職の源泉徴収票をお願いします」と声をかけておくのがいちばん効く一手です。
何が起きているか:年末調整は「その年の給与全部」で計算する
まず、なぜ前の会社の分を足すのかを押さえておきましょう。ここが腹落ちすると、あとの手順が「作業」ではなく「理由のある確認」に変わります。
年末調整は、毎月の給与から天引きしてきた所得税(源泉徴収)を、1年分の給与が確定した時点で「本来の年税額」と突き合わせて精算する手続きです。この「1年分の給与」は、本人がその年に受け取った給与全部のこと。自社が払った分だけではありません。
たとえば1月〜6月は前の会社、7月〜12月はあなたの会社で働いた人なら、1年分の給与は「前職の6か月+自社の6か月」です。自社分だけで計算すると、年収が実際より少なく見えて、年税額がずれてしまいます。
そして、前の会社では通常、退職した時点では年末調整をしていません。退職時に出る源泉徴収票は「年調未済(年末調整がまだの状態)」で、生命保険料控除などの欄も空いているのがふつうです。その続きを、年末まで在籍している今の会社が引き受ける——というのが、中途入社者の年末調整の全体像です。
年末調整の対象になるのは、原則として年末まで在籍していて、自社に「扶養控除等(異動)申告書」を出している人です。入社手続きのときにこの申告書を受け取っていれば、その人は自社で年末調整をする対象になります。まだ受け取っていない人がいたら、まずはそこから確認しておくと安心です。
具体例:前職の源泉徴収票の「3つの欄」を足す
では、実際にどこを足すのかを見ていきます。前の会社の源泉徴収票で見るのは、次の3つの欄です。
| 見る欄 | 何の数字か | 足す先 |
|---|---|---|
| 支払金額 | 前職で受け取った給与・賞与の合計(税金などを引く前の額) | 自社の支払金額に足す |
| 源泉徴収税額 | 前職で天引きされた所得税の合計 | 自社で天引きした所得税に足す |
| 社会保険料等の金額 | 前職で天引きされた健康保険・厚生年金・雇用保険などの合計 | 自社の社会保険料に足す |
数字で見てみましょう。1月〜6月は前職、7月〜12月は自社で働いた人の例です(金額はわかりやすくした例です)。
| 前職(1〜6月) | 自社(7〜12月) | 合計(年末調整で使う額) | |
|---|---|---|---|
| 支払金額 | 1,800,000円 | 2,100,000円 | 3,900,000円 |
| 源泉徴収税額 | 36,000円 | 42,000円 | 78,000円 |
| 社会保険料等 | 270,000円 | 315,000円 | 585,000円 |
年末調整では、この合計の支払金額390万円をもとに給与所得を出し、合計の社会保険料58万5,000円などの控除を差し引いて、その年の年税額を計算します。そして、年税額と合計の源泉徴収税額7万8,000円を比べ、多く引きすぎていれば還付、足りなければ追加で徴収します。

実際の計算は給与ソフトがやってくれます。あなたの仕事は、前職の3つの数字を、正しい欄に、正しく入力すること。ここさえ押さえれば大丈夫です。多くの給与ソフトには「前職分」や「前職の源泉徴収票」を入力する画面があるので、そこに3つの数字を入れる形になります。
読み取りのコツ:社会保険料等の欄には、括弧書きで小規模企業共済等掛金(iDeCoなど)の額が内書きされていることがあります。ソフトの入力欄が分かれているときは、源泉徴収票の書き方に合わせて入力してください。迷ったら、その欄だけ付せんを貼って顧問税理士に確認すれば十分です。
足さないもの:ここは現場でも迷いやすいところです
「前にもらったお金は全部足すの?」と迷いやすいので、足さないものも整理しておきます。
- 失業給付(雇用保険の基本手当):前職を辞めてから入社までのあいだに受け取っていても、所得税はかからないので足しません。
- 前職の退職金:退職金は給与とは別の「退職所得」として前職で精算済みです。源泉徴収票の様式も別なので、年末調整には入れません。
- フリーランスとしての報酬:入社前に個人で仕事を受けていた収入は給与ではないので、年末調整には入れません。必要に応じて本人が確定申告します。
- 今も続けている副業先の給与:前職ではなく「今も並行して働いている別の会社」の給与は、年末調整では合算できません。本人の確定申告で精算します。
「前の会社でもらった給与」だけを足す、と覚えておけば迷いません。
影響:前職の源泉徴収票が届かないとき
いちばん困るのは、12月になっても前職の源泉徴収票が手元にないケースです。前の会社には、退職した人に源泉徴収票を渡すルールがあります(退職後1か月以内が目安)。それでも、郵送先が古い住所だった、本人がどこにしまったか忘れた、ということは現場ではよくあります。
前職の源泉徴収票がないまま、自社の分だけで年末調整を進めることはできません。そのときの流れは次のとおりです。
- 自社分だけの源泉徴収票を作る(前職分を含めない、年末調整をしていない状態のもの)。
- 本人に、前職と自社の2枚の源泉徴収票で確定申告してもらうよう伝える。
- 本人が確定申告で1年分をまとめて精算する。
本人にとっては確定申告のひと手間が増えます。それを避けるためにも、早めの声かけがいちばんの手立てになります。本人を責める話ではなく、「こちらで1年分まとめて計算するために、ぜひ預からせてください」と伝えるのがコツです。
前職が廃業していて連絡が取れないなど、どうしても手に入らない事情があるときは、顧問税理士や所轄税務署に相談しましょう。ひとりで抱え込まなくて大丈夫です。
最後に作る源泉徴収票:摘要欄に前職の情報を書く
年末調整が終わったら、自社で源泉徴収票を作って本人に渡します。前職分を合算した人の源泉徴収票は、少しだけ書き方が変わります。
- 支払金額・源泉徴収税額・社会保険料等の金額の欄は、前職分を含めた合計額を書きます(先ほどの例なら、支払金額3,900,000円)。
- 摘要欄に、前職の情報を書きます。目安は次のとおりです。
- 前職の会社の住所(所在地)と名称
- 前職を退職した年月日
- 前職分の支払金額・源泉徴収税額・社会保険料等の金額
- 中途就・退職の欄に、自社に入社した年月日(就職年月日)を書きます。
給与ソフトに前職分を入力していれば、多くの場合は摘要欄まで自動で埋まります。出力したあとに、摘要欄に前職の会社名と金額が載っているかを目で見て確かめる——それだけで十分です。市区町村に出す給与支払報告書も同じ内容で作られるので、源泉徴収票を確かめておけば両方の安心につながります。
明日やること(まず1つだけ)
今は9月の終わり。年末調整の本番はまだ先ですが、中途入社者の対応は早めの一手がいちばん効くところです。
明日やることは、「今年入社した人の名前を書き出して、前職の源泉徴収票を預かっているか」を確かめるだけで十分です。
- 入社手続きの書類ファイルを開き、今年の入社者を一覧にする
- それぞれ「前職あり/なし(新卒・ブランクありなど)」をメモする
- 前職ありの人のうち、源泉徴収票をまだ預かっていない人に、ひと言声をかける
声かけの一文は、たとえばこんな形で大丈夫です。
お疲れさまです。経理の●●です。
今年の年末調整で、前の会社のお給料もあわせて計算するために、
前職の「源泉徴収票」を預からせていただけますか。
お手元にない場合は、前の会社に再発行をお願いしてもらえると助かります。
わからないことがあれば、いつでも声をかけてください。
10月のうちにこの一文を送れれば、12月に慌てることはぐっと減ります。
チェックリスト:中途入社者の年末調整
- 今年の中途入社者を一覧にしたか
- その人から扶養控除等(異動)申告書を受け取っているか
- 前職ありの人から、前職の源泉徴収票を預かったか(入社前に複数社あれば、その全部)
- 前職の源泉徴収票の支払金額・源泉徴収税額・社会保険料等の金額を読み取ったか
- 給与ソフトの前職分の欄に、3つの数字を正しい欄に入力したか
- 失業給付・退職金・フリーランス報酬・今も続く副業の給与を足していないか
- 前職の源泉徴収票が届かない人には、確定申告が必要になることをやさしく伝えたか
- 出力した源泉徴収票の摘要欄に、前職の会社名・退職年月日・前職分の金額が載っているか
- 中途就・退職の欄に、自社の入社年月日が入っているか
最後に
中途入社の人の年末調整は、自分の会社の外で起きたことまで受け止めて、1年分をきれいにまとめる仕事です。手元にない書類を待ち、よその会社の数字を読み取り、自社の分と足し合わせる——それを毎年ではない頻度で、ひとりで思い出しながら進めるのは、本当に大変なことだと思います。

でも、やることは難しくありません。前職の源泉徴収票を預かって、3つの数字を足して、摘要欄を確かめる。それだけです。今年入った人にとって、前の会社の分までまとめて精算してもらえることは、自分で確定申告をしなくて済む、小さくない安心です。あなたのその確認が、新しく入った仲間の年末を静かに支えています。
今日、今年の入社者の名前をひとり思い浮かべられたなら、それでもう準備は始まっています。ひとつずつで大丈夫です。
本記事は一般的な実務情報です。年末調整の対象者の範囲、控除の要件、源泉徴収票の記載方法は、税制改正や個別の事情によって見直されることがあります。最終的な判断は、国税庁の「年末調整のしかた」など最新の一次情報や、顧問税理士・所轄税務署にご確認ください。
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