
少額特例|1万円未満はインボイス保存不要|対象と1万円の数え方
「この100円のコピー代にも、インボイスっているのかな……」 細かいレシートを1枚ずつ確認して、登録番号が入っているかを目で追って、ないものは付箋を貼って。気づけば夕方——ひとりで経理を回していると、この作業の重さは本当に身にしみますよね。
でも、その手間、条件を満たせば減らせるかもしれません。インボイス制度には「少額特例」という、事務の負担を軽くするための仕組みが用意されています。税込1万円未満の仕入れなら、インボイスを保存していなくても、帳簿の保存だけで仕入税額控除ができる、というものです。
ただ、この特例は「誰でも」「いつまでも」使えるわけではありません。この記事では、自社が対象になるかの見分け方と、いちばんつまずきやすい「1万円」の数え方を整理します。今日は全部を覚えなくて大丈夫。まずは「うちは使えるのか」を確かめる、その一歩を一緒に踏み出しましょう。
結論:少額特例(正式には「一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置」)は、税込1万円未満の課税仕入れについて、インボイスの保存がなくても、一定事項を記載した帳簿の保存だけで仕入税額控除ができるという仕組みです。使えるのは、①基準期間の課税売上高が1億円以下、または②特定期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者。どちらか一方を満たせばOKです。ただし「1万円未満」は商品1個ごとではなく、1回の取引の合計(税込)で判定します。ここを取り違えると対象を広く見積もってしまうので要注意です。適用できるのは2029年(令和11年)9月30日までの課税仕入れまで。自社が対象かどうかの最終確認は、顧問税理士に一度みてもらうと安心です。
少額特例は「事務負担が重すぎる」への答えとして用意された
まず、この特例が何のためにあるのかだけ押さえておきましょう。ここが分かると、細かい条件も頭に入りやすくなります。
インボイス制度では、原則として、仕入税額控除を受けるために適格請求書(インボイス)の保存が必要です。でも、これを文字どおり全部に適用すると、100円のコピー代にも、300円の駐車場代にも、いちいちインボイスを集めて保存することになります。中小企業のひとり経理にとって、これはあまりに重い。
そこで、制度が始まるときに「規模の小さい事業者は、少額のものまで求めるのは酷だよね」という趣旨で、期間限定の軽減措置として用意されたのが少額特例です。
つまりこれは、抜け道でも、うっかり見落とされている裏ワザでもありません。「現場の手が回らない」という事情を、制度の側が正面から認めて用意してくれた出口です。使える会社なら、遠慮なく使っていい仕組みだと考えてください。
まず確認:うちは少額特例を使える会社?

対象になるのは、次のどちらか一方を満たす事業者です。両方そろえる必要はありません。
①基準期間の課税売上高が1億円以下
基準期間とは、法人なら前々事業年度、個人事業者なら前々年のことです。消費税を納める義務があるかどうかを判定するときにも登場する、おなじみの期間ですね。ここの課税売上高が1億円以下なら、少額特例の対象です。
②特定期間の課税売上高が5,000万円以下
基準期間で1億円を超えてしまっても、あきらめないでください。もうひとつの入口があります。
特定期間とは、法人なら前事業年度の開始の日から6か月間、個人事業者なら前年の1月1日〜6月30日のことです。この期間の課税売上高が5,000万円以下であれば、やはり対象になります。
ここは間違えやすいところです:納税義務の判定で特定期間を見るときは、課税売上高に代えて「給与等の支払額」で判定してもよい、という選び方ができます。でも、少額特例の判定では、給与等の支払額に代えることはできません。あくまで課税売上高で見ます。同じ「特定期間」という言葉でも扱いが違うので、ここだけ気に留めておいてください。
多くの中小企業は、①の時点で対象に入ります。まずは前々期の課税売上高を1つ確認するところからで十分です。
「1万円未満」は商品ごとではなく、1回の取引で数える
ここが、この特例でいちばん取り違えられやすいポイントです。丁寧に見ていきましょう。

「1万円未満」の判定は、1回の取引の課税仕入れの金額(税込)が1万円未満かどうかで行います。商品1個ごとの金額で見るのではありません。
具体例で見てみましょう。
- 税込5,000円の商品を1個だけ購入 → 取引の合計は5,000円。1万円未満なので対象
- 税込5,000円の商品を2個、まとめて1回で購入 → 取引の合計は10,000円。1万円以上なので対象外(1個ずつは5,000円でも、合計で見ます)
- 税込8,000円の備品と、税込3,000円の消耗品を、同じ買い物で一緒に購入 → 合計11,000円。対象外
「1個ずつは安いから大丈夫」と考えてしまうと、ここでズレます。見るのはレシート1枚(=1回の取引)の税込合計、というイメージで押さえておくと迷いにくくなります。
継続的なサービスを月ごとにまとめて請求されるような取引も、同じ考え方です。1回あたりは少額でも、1か月分をまとめた請求の金額で判定することになるため、月額で1万円以上になるものは対象外になります。
なお、判定は税込の金額で行います。税抜経理を採用している会社でも、この判定だけは税込で見る点に気をつけてください。
少額特例で気をつけたい3つのこと
対象と金額がわかったら、実務でつまずきやすいところを3つだけ確認しておきましょう。
1. 帳簿の保存は必要(「何もしなくていい」ではない)
少額特例で不要になるのはインボイスの保存であって、帳簿の保存は必要です。ここは変わりません。
とはいえ、身構えなくて大丈夫です。帳簿に書く内容は、通常の記載事項(相手方の名称、取引年月日、取引内容、金額)で足りるとされています。「少額特例を使いました」といった特別な文言を書き足す必要はありません。いつもどおり記帳していれば、それで整っている状態です。
2. 売り手のインボイス交付義務が消えるわけではない
少額特例は、あくまで買い手(仕入れる側)が保存する義務についての特例です。売り手として1万円未満の商品を売ったときに、インボイスを出さなくてよくなるわけではありません。
自社が適格請求書発行事業者なら、取引先から求められれば、少額でもインボイスを交付する義務があります。「買うときはいらない」=「売るときも出さなくていい」ではない、と分けて覚えておいてください。
3. レシートは捨てなくていい
「保存が不要なら、もう捨てていいの?」と思うかもしれません。でも、捨てないでください。
消費税のインボイスとしての保存義務が外れるだけで、その支出が確かにあったことを示す証拠としては、法人税の計算などの面から引き続き必要です。証憑の整理・ファイリングは、これまでどおり続けてください。
少額特例で軽くなるのは、「登録番号が入っているかを1枚ずつ確認して、入っていないものを追いかける」という、あの神経を使う作業のほうです。そこが減るだけでも、月次はずいぶん楽になります。
いつまで使える?2029年9月30日という期限
少額特例は、期間限定の措置です。適用できるのは、2023年(令和5年)10月1日から2029年(令和11年)9月30日までの間に行う課税仕入れまで。
つまり、2029年10月1日以降は、1万円未満の仕入れであっても、原則どおりインボイスの保存が必要になります。まだ先の話ですが、「いつか終わるもの」として頭の片隅に置いておくと、その時期に慌てずにすみます。
なお、この期限は事業者ごとの期間ではなく、制度全体の期限です。途中で課税売上高が1億円を超えた場合は、その事業年度からは判定の結果しだいで使えなくなることもあります。売上が伸びている会社ほど、期末の課税売上高は気にしておきたいところです。
免税事業者からの仕入れをどう扱うかは、経過措置という別のルールも関わってきます。少額特例と経過措置のどちらがどう効くのかは、取引先の状況によって変わる部分なので、判断に迷う取引が多いようなら、一度税理士に「うちはどう処理しますか」と聞いてしまうのがいちばん早くて確実です。
少額特例を使う前のチェックリスト
上から順に確認してみてください。
- 前々事業年度(個人は前々年)の課税売上高は1億円以下か
- 1億円を超えていた場合、特定期間(前期の最初の6か月/個人は前年1〜6月)の課税売上高は5,000万円以下か
- 特定期間の判定を、給与等の支払額ではなく課税売上高で見ているか
- 「1万円未満」を、商品ごとではなく1回の取引の合計で見ているか
- 金額の判定を税込で行っているか
- 帳簿には、通常どおりの記載事項(相手方・日付・内容・金額)が入っているか
- 売り手としてのインボイス交付義務と混同していないか
- レシート・領収書そのものは、これまでどおり保存し続けているか
- 2029年9月30日という期限を把握しているか
- 判断に迷う取引に、「税理士に確認」の印をつけたか
明日やること(まず1つだけ)
制度の全体を覚えようとすると、それだけで気が重くなります。
明日やることは、「前々事業年度の課税売上高を1つ調べて、1億円以下かどうかを確認する」だけで十分です。決算書か申告書を開けば、すぐ見つかります。
もしそこで1億円以下だったなら、あなたの会社は少額特例の対象です。次に細かいレシートの束を前にしたとき、税込1万円未満のものについては、登録番号を1枚ずつ追いかける作業をやめていい——それだけで、月次の負担はひとつ確実に軽くなります。
最後に
インボイス制度が始まってから、経理の「確認すること」は明らかに増えました。金額の大小にかかわらず1枚ずつ見て、番号を探して、なければ問い合わせて。その積み重ねを、誰にも見られないところでひとりでこなしてきたのだと思います。

でも、その丁寧さは、必ずしも全部を背負い続けなければいけないものではありません。制度の側にも「ここまでやらなくていい」と言ってくれる出口が、ちゃんと用意されています。少額特例は、そのひとつです。
今日、「うちは使えるかもしれない」と気づけたなら、それはもう手元の作業がひとつ減り始めた合図です。全部を一度に整えなくて大丈夫。まずは課税売上高をひとつ確認するところから、ゆっくりで十分です。
この記事は一般的な実務情報です。消費税・インボイスの取扱いは個別の事情や最新の通達によって異なります。適用の要件や期限は改正されることもあるため、最終的な判断は国税庁の情報や、顧問税理士・所轄税務署にご確認ください。
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