事務所家賃の引き落としが記帳された通帳と賃貸借契約書を机に並べて、インボイスの扱いを確かめているひとり経理の担当者

家賃の口座振替とインボイス|契約書と通帳で控除の要件を満たす

「今月も事務所の家賃、ちゃんと引き落とされてる。……でも、請求書も領収書も来ないな。この消費税、控除していいんだっけ」。

通帳の引き落としを確認しながら、ふとそこで手が止まったこと、ありませんか。備品やタクシー代ならレシートが手元に残るのに、家賃だけは何も届かない。毎月同じ金額が静かに出ていくだけです。ひとりで経理を回していると、こういう「証拠が手元にない取引」が、いちばん気持ち悪く残りますよね。

ここで立ち止まれたのは、いい気づきです。そして、安心してください。家賃のように口座振替・口座振込で払う取引は、毎月のインボイスが届かなくても、控除できないわけではありません。国税庁も、こうした取引のために「複数の書類を合わせて要件を満たす」やり方をきちんと示しています。この記事では、何を組み合わせればいいのか、契約書に登録番号が書いていないときはどうするのかを、順番に整理していきます。

結論:口座振替・口座振込の家賃は、賃貸借契約書と、実際に支払った事実がわかる通帳(またはネットバンキングの明細)をセットで保存すれば、仕入税額控除の要件を満たせます。インボイスに必要な記載事項は1枚の書類にそろっていなくてもよく、複数の書類を合わせて満たせばOKだからです。契約書に登録番号(T+13桁)や税率ごとの記載がない場合は、大家さん・管理会社から「登録番号のお知らせ」などを別途もらい、契約書と一緒に保存すれば足ります。なお、社宅など住宅としての賃貸は、そもそも消費税が非課税なのでインボイスの心配は要りません。

なぜ家賃だけ、毎月なにも届かないのか

対応の前に、理由をひとつだけ押さえておきましょう。ここが分かると、あとの話がすっと入ってきます。

インボイス(適格請求書)は、売り手が買い手に交付する書類です。ただ、家賃のように契約で金額と支払日が決まっていて、毎月同じ内容が自動で動く取引では、そもそも毎月の請求書を発行しない慣行が根づいています。大家さんの側からすると、金額も期日も変わらないのに、毎月書類を送る手間がかかるからです。

一方で、消費税の仕入税額控除(自社が払った消費税を、納める消費税から差し引く仕組み)を受けるには、原則としてインボイスの保存が必要です。ここで「毎月インボイスが来ないから控除できない」となってしまうと、家賃を払っている会社のほとんどが困ってしまいますよね。

そこで用意されているのが、必要な記載事項を、複数の書類を合わせて満たしてよいという考え方です。インボイスは「1枚の完成した紙」である必要はありません。契約書に書いてあること+通帳でわかることを足して、必要な項目がそろっていれば大丈夫、という整理になっています。

インボイスに必要な記載事項そのものは適格請求書の記載事項6つ|自社の請求書を見直すチェックでまとめています。「何がそろっていればいいのか」を先に眺めておくと、このあとの確認が早くなります。

契約書と通帳の“合わせ技”で満たす

賃貸借契約書と通帳の二つを組み合わせてファイルに保存することで、家賃のインボイス保存の要件を満たすことを示した図
家賃は「契約書」+「通帳」をセットで残す。この二つで必要な項目がそろう

具体的に、何と何を残せばいいのか。家賃の場合は次の二つです。

  1. 賃貸借契約書:大家さん・管理会社の名称、物件、賃料、契約期間など「取引の内容」を示す書類です。ここに登録番号(T+13桁)税率ごとの消費税額または適用税率が書かれていれば、インボイスとして必要な項目の大半をカバーできます。
  2. 通帳・ネットバンキングの明細:契約書だけでは「本当にその月に払ったか」が分かりません。そこを埋めるのが、引き落としが記録された通帳や、銀行が発行する振込金受取書、ネットバンキングの取引明細です。ここで支払年月日が確認できます。

この二つをセットで保存しておけば、必要な記載事項がそろった状態になります。契約書は毎年届くものではないので、契約書のコピー(またはPDF)を、その物件の経理ファイルに1部入れておくのがおすすめです。毎月の作業は通帳の記帳・明細の保存だけで済みます。

なお、ネットバンキングの明細をダウンロードして保存する場合は、電子帳簿保存法でいう電子取引にあたることがあります。データのまま保存する形と、その整え方は電子取引データの保存|結局なにをすればいいかを整理するにまとめています。

契約書に登録番号が書いていないとき

ここが、いちばん多い引っかかりどころです。

インボイス制度が始まったのは2023年10月。それ以前に結んだ賃貸借契約書には、当然ながら登録番号は書かれていません。長く借りている事務所ほど、契約書は古いままのはずです。「じゃあ、うちは要件を満たせないのでは」と不安になりますよね。

大丈夫です。この場合は、契約書とは別に、登録番号などの不足している情報を通知してもらえば足ります。具体的には次のような形です。

契約書を巻き直す必要はありません。不足分を紙かデータで1枚足して、契約書と同じファイルに入れておく——それだけです。一度そろえてしまえば、契約が続く間はずっと使えます。

そもそも消費税がかからない家賃もある

すべての家賃で登録番号を追いかける必要はありません。ここは肩の力を抜いていい部分です。

住宅の貸付けは、消費税が非課税です。つまり、社宅として借りている部屋や、従業員の住まいとして会社契約している賃貸は、そもそも消費税がかかっていません。非課税の取引には仕入税額控除という考え方自体がないので、インボイスも登録番号も不要です。

一方で、事務所・店舗・倉庫として借りている物件の家賃は課税です。こちらはインボイスの対象になります。

判断に迷いやすいのが、次のような場面です。

自社の家賃がどの税区分になるかを一度整理しておくと、毎月の記帳がぐっと軽くなります。課税・非課税・不課税の分け方そのものは消費税の税区分の付け方|課税・非課税・不課税・免税を記帳で分けるで扱っています。

大家さんが免税事業者だったときは

登録番号をたずねて、「うち、インボイスの登録はしていないんです」と返ってくることもあります。個人の大家さんでは、めずらしくありません。

この場合、その家賃はインボイスのない課税仕入れになりますが、すぐに全額が控除できなくなるわけではありません。免税事業者からの仕入れには経過措置があり、一定割合を控除できます。

ひとつ、時期の話として知っておいていただきたいことがあります。この経過措置の割合は、2026年9月30日までは仕入税額相当額の80%、2026年10月1日から2029年9月30日までは50%と、段階的に下がる仕組みになっています。つまり、この2026年8月時点では80%の期間の終わりごろにあたります。

慌てて何かを変える必要はありません。ただ、免税事業者の大家さんに家賃を払っている場合は、10月以降の会計処理で控除割合が変わることを、いま頭の片隅に置いておくと、期が変わってから「あれ、数字が合わない」と焦らずに済みます。会計ソフトの税区分の設定も、10月をまたぐタイミングで一度確認しておくと安心です。

経過措置の考え方と仕訳の整理はインボイスの経過措置|免税事業者からの仕入れは80%→50%へにまとめてあります。

家賃・口座振替のインボイス対応チェックリスト

現場で使えるように、確認項目に落としておきます。手元に契約書と通帳を用意して、上から順に見てみてください。

全部に一度で丸をつけなくて大丈夫です。まずは契約書を1部コピーして、通帳のとなりに置く——今日はそこまでで十分です。

迷いやすいところへの、ひとことメモ

最後に

家賃は、毎月きちんと出ていくのに、手元に何も残らない不思議な取引です。だからこそ「本当にこれでいいのかな」と不安になりやすいのだと思います。

でも、必要なものは実はもう社内にあります。契約書は棚に。支払いの記録は通帳に。足りないのは、その二つを「セットで残す」という一手間だけです。

今日できることは、たったひとつ。事務所の賃貸借契約書を引っぱり出して、登録番号が書かれているかを見てみる。書いてあれば、コピーを1部とって経理ファイルへ。書いていなければ、管理会社への一行のメールを下書きしておく。それで、この件は前に進みます。

証拠が手元に残らない取引に気づいて、こうして確認しようとしている——それだけで、もう経理としてきちんと仕事をしています。全部を一度に完璧にしなくて大丈夫。判断に迷う契約に出会ったら、それは「確認すべき点を見つけられた」ということ。顧問税理士や国税庁の情報にそっと確かめながら、ひとつずつ片づけていきましょう。

賃貸借契約書と通帳をひとつのファイルにまとめ終えて、肩の力が抜けて少しほっとしているひとり経理の担当者
この記事は一般的な実務情報です。消費税・インボイスの取扱いは個別の事情や最新の通達によって異なります。最終的な判断は、顧問税理士・所轄税務署にご確認ください。

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