
振込手数料は誰が負担?先方負担・当方負担の仕訳の基本
「お支払いは振込手数料を差し引かせていただきます」——取引先からそんな一文を見て、あれ、うちが負担するんだっけ、それとも相手?と手が止まったこと、ありませんか。
逆に、自社が請求した55,000円に対して54,340円しか入っていなくて、「660円、勝手に引かれてる…」と通帳の前でモヤモヤした経験もあるかもしれません。ひとりで経理を回していると、この小さな手数料の扱いは、聞ける人もいないまま何となく処理してしまいがちなところです。
でも、振込手数料は「誰が負担するのが原則か」と「負担する側の仕訳」さえ押さえれば、迷いはかなり消えます。この記事では、先方負担・当方負担のどちらのケースでも自信を持って処理できるよう、判断と仕訳を一緒に整理していきます。
結論:振込手数料は、法律上(民法)の原則では振り込む側(支払う側)が負担します。ただし契約や慣習で受取側が負担する取り決めも有効です。①まず契約書・取引条件で負担者を確認 → ②振り込む側なら「支払手数料」で費用処理 → ③受取側が負担して差し引かれたら、売掛金は請求額で消し、差額は「支払手数料」または「売上値引(売上に係る対価の返還等)」で処理、が基本の流れ。税区分やインボイス対応は下で具体的に見ていきます。最終判断は顧問税理士・所轄税務署にご確認ください。
まず、「原則は振り込む側の負担」を押さえる
意外と知られていないのですが、民法では、支払(弁済)にかかる費用は原則として債務者=振り込む側が負担するとされています(民法485条)。つまり、何も取り決めがなければ、振込手数料はお金を払う側が負担するのが原則です。
とはいえ、実務では「振込手数料は貴社(受取側)でご負担ください」と取引条件に書かれていることも多く、これも当事者同士の合意なので有効です。だから大事なのは、原則を知ったうえで、その取引ではどう取り決めているかを先に確認すること。ここがずれると、毎回モヤモヤすることになります。
確認する場所は、だいたいこの3つです。
- 取引基本契約書・注文書の支払条件欄
- 相手からの請求書・支払通知書の但し書き
- 過去の入金・支払実績(いつも差し引かれている=受取側負担の慣習)
パターン1:自社が「振り込む側」のとき(当方が支払う)
自社が支払う立場で、手数料も自社負担なら、話はシンプルです。振込手数料は自社の費用になります。
例:外注費33,000円を振り込み、振込手数料440円を自社が負担した。
| 借方(左) | 貸方(右) |
|---|---|
| 買掛金(または外注費)33,000 | 普通預金 33,440 |
| 支払手数料 440 |
ポイント:
- 勘定科目は「支払手数料」が一般的です。銀行に払う役務の対価なので、消費税は課税仕入れ(課税10%)として処理します(振込手数料には消費税がかかっています)。
- もし取引条件が「手数料は受取側(先方)負担」なら、自社は手数料を差し引いた金額を振り込みます。この場合、自社の帳簿に手数料は載りません(差し引いて送るだけ)。相手の売掛金を減らすことになるので、先方の合意があることが前提です。

パターン2:自社が「受け取る側」で、手数料を差し引かれたとき
ひとり経理でいちばん迷うのがこちらです。自社が55,000円を請求したのに、相手が振込手数料を差し引いて54,340円だけ振り込んできた——差額660円をどう処理するか、です。
大前提として、売掛金は請求額(55,000円)で消し込むのが基本です。入金額の54,340円だけで消すと、差額660円が売掛金に残り続けてしまいます。差額の処理には、実務上おもに2つの方法があります。
方法A:差額を「支払手数料」として費用にする
差し引かれた手数料を、自社の費用(支払手数料)として計上する方法です。もっともよく使われます。
| 借方(左) | 貸方(右) |
|---|---|
| 普通預金 54,340 | 売掛金 55,000 |
| 支払手数料 660 |
ここで重要な注意点があります。この660円は、相手の銀行が相手に対して行った振込サービスの手数料であって、自社は銀行から役務の提供を受けていません。そのため、この差額を「支払手数料」に入れても、原則として自社の仕入税額控除の対象にはなりません。会計ソフトの税区分は「対象外/不課税」にしておくのが無難です。ここを課税仕入れにしてしまうと、消費税を余分に控除する誤りにつながります。
方法B:差額を「売上値引(売上に係る対価の返還等)」にする
差し引かれた手数料を、売上のマイナス(値引き)として処理する方法です。
| 借方(左) | 貸方(右) |
|---|---|
| 普通預金 54,340 | 売掛金 55,000 |
| 売上値引(売上高のマイナス)660 |
この方法は、660円分だけ売上(課税売上)を減らす処理なので、消費税の計算とも整合が取りやすいのが特長です。どちらの方法を使うかは会社の方針によりますが、同じ取引先・同じパターンでは処理をそろえることが、あとで見返したときの分かりやすさにつながります。迷ったら顧問税理士に、自社はどちらで統一するか相談しておくと安心です。
インボイス制度での扱い(受取側が負担する場合)
インボイス制度が始まってから、この「差し引かれた振込手数料」の扱いが少し気になっている方も多いはずです。ポイントを、いまの制度(2026年時点)にそって整理します。
- 方法B(売上値引=売上に係る対価の返還等)で処理する場合:本来は「適格返還請求書(返還インボイス)」の交付が必要になる場面ですが、税込1万円未満の売上返還等については、返還インボイスの交付義務が免除されています(少額な返還インボイスの交付義務免除)。振込手数料は通常数百円なので、この免除に収まり、返還インボイスを別途出す必要は基本的にありません。この免除は期間限定ではなく、恒久的な措置とされています。
- 方法A(支払手数料で費用処理)にする場合:前述のとおり、自社は銀行から役務提供を受けていないため、この手数料相当額は原則として仕入税額控除の対象外です。仕入税額控除を取りたいなら、金融機関が発行する手数料のインボイス等が必要になりますが、差し引かれたケースでは自社にそれがありません。この点でも、実務上は方法Bを選ぶ会社が増えています。
いずれの方法でも、キーワードは「売掛金は請求額で消す」「差額の税区分を誤らない」の2点です。どちらの方法・税区分が自社に合うかは、取引量や会計ソフトの設定とあわせて、顧問税理士・所轄税務署に確認しておくと確実です。
トラブルを減らす、取り決めの一言
そもそも「毎回どっちが負担か分からない」状態が、いちばん手間を生みます。これから防ぐなら、請求書や取引条件に一言添えておくのがおすすめです。
- 受取側(自社)負担にしたくない場合の例:「恐れ入りますが、振込手数料は御社にてご負担をお願いいたします。」
- 少額でお互い手間を減らしたい場合の例:「振込手数料を差し引いてのお振込みで差し支えございません。」
どちらが正しいということはなく、取引先との関係と、自社の事務負担のバランスで決めれば大丈夫です。決めて明文化しておくと、次からは迷わず処理できます。
振込手数料の処理チェックリスト
今日すべてを完璧にやる必要はありません。上から順に、できるところまで。
- 最低ライン(まずここだけ)
- その取引の負担者を確認する(契約書・請求書の但し書き・過去実績)
- 受取側で差し引かれていたら、売掛金は「請求額」で消す(入金額で消さない)
- 支払う側のとき
- 自社負担なら「支払手数料」で費用計上(税区分は課税仕入れ10%)
- 先方負担の取り決めなら、手数料を差し引いた額を振込(合意があることを確認)
- 受け取る側で差し引かれたとき
- 方法A(支払手数料)か方法B(売上値引)か、社内で統一しておく
- 差額の税区分を誤らない(支払手数料にする場合は対象外/不課税)
- 税込1万円未満なら返還インボイスの交付は原則不要(少額免除)
- 迷ったとき
- 判断に迷う税区分・処理方法は、証跡を残して顧問税理士・所轄税務署に確認
明日やること(まず1つだけ)
明日は、「いちばん取引の多い1社」について、振込手数料の負担がどう取り決められているかだけ確認してみてください。契約書か、直近の請求書か、過去の入金実績を1つ見れば分かります。負担者さえはっきりすれば、そのあとの仕訳はこの記事の型に当てはめるだけです。全部の取引先を一度に整理しようとしなくて大丈夫。よく使う1社から、少しずつで十分です。
最後に
振込手数料は、金額こそ数百円でも、「どっちが負担?」「消費税は?」と考え出すと意外に神経を使う論点です。聞ける相手がいないまま、何となく処理してきた方も多いと思います。

でも、いちど「原則は振り込む側の負担」「受取側が引かれたら請求額で売掛を消して差額を処理」という軸を持てば、次からは同じパターンを見た瞬間に手が動くようになります。今日ひとつ、負担者の考え方を自分の言葉で言えるようになったなら、それはもう十分な前進です。完璧でなくて大丈夫。今日できたところまでで、ちゃんと進んでいます。
本記事は一般的な実務情報です。税務・会計の取扱いは個別の事情や最新の通達によって異なります。最終的な判断は、顧問税理士・所轄税務署にご確認ください。
入金・支払まわりは、入金額が請求と合わないときの確認順 や 請求書の発行から入金確認までの基本フロー、買掛金・未払金の支払漏れを防ぐ支払管理表 ともあわせて、記事一覧から少しずつ一緒に整理していきましょう。