
滞留債権リスト(売掛金年齢表)の作り方|回収遅れを早く見つける
月次の試算表を締めて、売掛金の残高を見る。合計は帳簿と合っている。それでも、ふと「この残高の中に、いつの売上が混ざっているんだろう」と気になったこと、ありませんか。
合計が合っていることと、ちゃんと回収できる見込みがあることは、別の話です。先月の請求も、半年前の請求も、帳簿の上では同じ「売掛金」という一行にまとまってしまう。だから、古い未回収ほど静かに埋もれていきます。気づくのは、決算前に明細を並べたときや、社長に「あの件、入金あった?」と聞かれたとき——そして、そのときにはもう回収しづらくなっている。
この記事では、その「埋もれ」を防ぐための売掛金年齢表(エイジングリスト)を、エクセルで無理なく作る方法を整理します。難しい分析ではありません。月に一度、売掛金を「いつの売上か」で並べ替えるだけの表です。
結論:売掛金の明細を、取引先ごと × 発生からの経過期間ごと(未到来/1か月以内/1〜3か月/3か月超)に並べた表を、月に一度だけ作ります。作ると、金額の大小ではなく「古さ」で問題が浮かび上がるので、どこから督促すればいいかが自分で決まります。会計ソフトに「売掛金年齢表」「債権残高一覧」の機能があればそれで十分。無ければエクセルで、列を4つ足すだけで作れます。
そもそも「売掛金年齢表」とは
売掛金年齢表(エイジングリスト、滞留債権リストとも呼ばれます)は、期末や月末に残っている売掛金を、「発生してからどれくらい経ったか」で区分して並べた一覧表のことです。
イメージとしては、こんな形です。
| 取引先 | 残高合計 | 期日未到来 | 1か月以内 | 1〜3か月 | 3か月超 |
|---|---|---|---|---|---|
| A商事 | 880,000 | 880,000 | — | — | — |
| B工業 | 550,000 | 330,000 | 220,000 | — | — |
| C物産 | 396,000 | — | — | 176,000 | 220,000 |
| 合計 | 1,826,000 | 1,210,000 | 220,000 | 176,000 | 220,000 |
上の表で、残高がいちばん大きいのはA商事の88万円です。でも、心配なのはC物産のほうですよね。金額は39万6千円と小さいのに、3か月を超えた22万円が残っている。合計残高だけを見ていたら、この22万円はA商事の88万円の陰に隠れて見えません。
年齢表の役目は、これだけです。金額の順ではなく、古さの順で並べ直して、優先順位を教えてくれる。 分析でも管理会計でもなく、「どこから連絡するか」を決めるための、実務の道具です。
作る前に:どこから数字を持ってくるか
いきなり表を作り始める前に、材料を確認します。ここが揃っていれば、あとは並べ替えるだけです。
- 売掛金の明細(補助元帳):取引先ごとの残高がわかるもの。会計ソフトなら「補助残高一覧表」「取引先別残高」などの名前で出せます。
- 請求の記録:いつ、どの取引先に、いくら請求したか。請求書の控えや請求管理表で十分です。
- 支払条件(支払サイト):取引先ごとの締め日・支払日。これがないと「期日未到来」と「遅れている」の区別がつきません。支払サイトと締め日の基本で自社の条件を一度整理しておくと、この先ずっと楽になります。
会計ソフトによっては、この年齢表そのものを出力できるものもあります。まず「売掛金 年齢表」「債権 滞留」あたりで自社のソフトのメニューを探してみてください。あればそれを使うのがいちばん早いです。無ければ、次のエクセルの手順に進みます。
エクセルで作る手順(1回作れば、翌月からは貼り替えるだけ)
一度に完成させようとしなくて大丈夫です。上から順に、1つずつ足していきます。
手順1:未回収の請求を1行ずつ書き出す
まず、月末時点で入金が済んでいない請求を、1請求=1行で書き出します。列はこれだけで足ります。
取引先名|請求日|請求書番号|請求金額|入金予定日|入金済額|残高
ここでの注意はひとつだけ。取引先ごとの合計ではなく、請求1件ごとに分けることです。合計にしてしまうと、「そのうちどれが古いのか」がまた見えなくなってしまうので、せっかくの年齢表の意味がなくなってしまいます。
手順2:「経過日数」の列を足す
入金予定日から月末時点で何日過ぎたかを出します。エクセルなら引き算だけです。
= 基準日(月末) − 入金予定日
マイナスになるものは、まだ期日が来ていない正常な売掛金です。プラスになったものが、遅れている分。ここで初めて、数字が「古さ」を語り始めます。
手順3:4つの区分に振り分ける
経過日数をもとに、次の4区分のどこかに入れます。区分の切り方に絶対の正解はありませんが、迷ったらこれで始めてください。
- 期日未到来:まだ支払日が来ていない(=正常)
- 1か月以内:期日を過ぎて30日まで
- 1〜3か月:31〜90日
- 3か月超:91日以上
IF 関数で振り分けてもいいですし、最初は目視で色を塗るだけでも十分に役に立ちます。きれいな数式より、毎月続けられることのほうが大事です。
手順4:取引先ごとに集計する
最後に、ピボットテーブル(または SUMIFS)で、行=取引先、列=4区分にして集計します。これで冒頭の表の形になります。
そして、この合計が試算表の売掛金残高と一致するかを必ず確かめてください。ここが合わないときは、年齢表が間違っているというより、消し込み漏れや二重計上が見つかるサインであることが多いです。少し面倒ですが、この突き合わせは毎月やる価値があります。

作ったあと、どこから手をつけるか
表ができたら、次は使い方です。全部に一度に対応しなくて大丈夫。右端から見ていく、それだけ覚えておけば十分です。
3か月超:まず理由を確かめる
いちばん古い区分です。ここに残っているものは、放置された未回収かもしれませんし、そもそも売掛金ではないかもしれません。実務でよくあるのは次のような中身です。
- 値引き・返品の処理が漏れていて、実際には請求できない金額が残っている
- 相手が相殺で払ったつもりでいて、こちらは消し込めていない
- 入金はあったが振込名義が違い、仮受金などに入ったままになっている
- 本当に相手が支払っていない
督促する前に、まず自社側の処理漏れを疑うのがおすすめです。連絡してから「うちのミスでした」となると気まずいですし、この4つのうち上の3つは、社内で数分確認すれば片づくことも少なくありません。本当に未払いだと確認できたら、督促の進め方の順番に沿って、静かに一段ずつ進めます。
1〜3か月:今月中に一度連絡する
まだ十分に回収できる範囲です。この区分にいるうちに一声かけておくと、3か月超に落ちてくるものがぐっと減ります。年齢表のいちばんの効果は、実はここにあります。「悪化してから気づく」を「悪化する前に気づく」に変えることです。
1か月以内:様子を見る
行き違いや事務処理の都合で数日ずれることは普通にあります。ここで慌てる必要はありません。翌月も同じ取引先が残っていたら、そのとき連絡すれば十分です。
同じ相手が毎月ここにいる、というサイン
区分そのものより大事なのが、「先月もこの取引先、ここにいたな」という気づきです。金額が小さくても、毎月遅れる相手は、支払条件の再確認や与信の見直しを考えるきっかけになります。これは1か月だけの表では絶対に見えないので、作った年齢表は月ごとに保存しておいてください。3か月分並べるだけで、傾向が驚くほどはっきり見えてきます。
決算のときにも効いてきます
売掛金年齢表は、月次のためだけの表ではありません。決算でも、そのまま次の3つに使えます。
- 勘定科目内訳明細書の下地になる:決算で提出する売掛金の内訳は、取引先別の残高一覧です。年齢表を毎月作っていれば、決算期末の分がほぼそのまま使えます。
- 貸倒れの検討材料になる:長期間動かない債権は、貸倒損失・貸倒引当金を検討する対象になり得ます。ただし、税務上、貸倒損失として損金にできる場合は要件が細かく決まっています。「古いから落とせる」ではないので、判断は必ず顧問税理士に相談してください。年齢表は、その相談に持っていく資料になります。
- 時効の話に気づける:売掛金にも消滅時効があり、現在の民法では原則として権利を行使できると知った時(通常は支払期日)から5年です。何年も動いていない債権が見つかったら、放置せず早めに社長・顧問へ共有しておくと安心です。
つまり年齢表は、月次では督促の道具、決算では説明の資料になります。ひとつ作れば二度使える、というのが地味にうれしいところです。
続けるためのコツ
正直に言うと、この手の表は「作ること」より「毎月続けること」のほうが難しいです。ひとりで経理を回していれば、月初はただでさえ手一杯ですよね。だから、最初から完璧を目指さないでください。
- 月次の締め作業の中に組み込む:単独のタスクにすると必ず後回しになります。月次決算のチェックリストに1行足して、締めの流れの一部にしてしまうのがいちばん続きます。
- 区分は4つのままでいい:細かくすればするほど、翌月の自分がつらくなります。まずは4区分で回して、必要になってから増やせば十分です。
- フォーマットは固定する:毎月レイアウトを変えないこと。列の位置を揃えておけば、翌月は明細を貼り替えるだけで完成します。月次の経理ルーティンをテンプレ化するの考え方がそのまま使えます。
- 社長への報告に1行添える:「3か月超が○件、○円です」と伝えるだけで、経理が何を見ているかが伝わります。ひとりで抱えていた回収の心配を、共有できる形に変えられます。
売掛金年齢表のチェックリスト
上から順に、今日できるところまでで大丈夫です。
- 材料をそろえる
- 取引先ごとの売掛金残高(補助元帳)を出した
- 取引先ごとの支払条件(締め日・支払日)を確認した
- 会計ソフトに年齢表・債権残高一覧の機能がないか探した
- 表を作る
- 未回収の請求を「1請求=1行」で書き出した(取引先ごとの合計にしていない)
- 入金予定日からの経過日数を計算した
- 期日未到来/1か月以内/1〜3か月/3か月超に振り分けた
- 取引先ごとに集計した
- 合計が試算表の売掛金残高と一致することを確かめた
- 使う
- 3か月超について、まず自社側の処理漏れ(値引・返品・相殺・消し込み漏れ)を確認した
- 1〜3か月の取引先に、今月中の連絡予定を決めた
- 先月の表と見比べ、毎月残り続けている取引先がないか見た
- 作った表を月ごとにファイル保存した
- 決算に向けて
- 長期間動いていない債権を、社長・顧問税理士へ共有した
明日やること(まず1つだけ)
明日は、「入金予定日を3か月以上過ぎている売掛金があるか」だけを見てみてください。表を完成させなくて構いません。会計ソフトの補助元帳を開いて、古い日付のまま残っている行がないかを目で追うだけで十分です。
もし1件も無ければ、それはとても良い状態です。もし見つかったら、その1件について「本当に未入金か、それとも自社の処理漏れか」を確かめる。今日はそこまでで大丈夫です。表づくりは、その次の月からで間に合います。
最後に

売掛金の回収は、ひとりで経理をしていると本当に気を遣う仕事だと思います。督促は気が重いし、かといって放っておけば資金繰りに響く。誰に相談すればいいのかも分からないまま、頭の片隅でずっと気になっている——そんな状態が続くのは、しんどいですよね。
売掛金年齢表は、その「なんとなく気になる」を「今月はこの1件」に変えてくれる表です。全部を追いかけなくていい。右端に残っている数件だけ見ればいい、と決められるだけで、気持ちはずいぶん軽くなります。
残高合計をきちんと合わせている時点で、あなたはもう十分ていねいに経理を回しています。あとは、その合計を少しだけ横に開いてみるだけです。今月は4つの列を足すところから、一緒に始めてみましょう。
本記事は一般的な実務情報です。貸倒損失・貸倒引当金の税務上の取扱いや、時効・法的手続きが絡む判断は、個別の事情や最新の法令・通達によって異なります。最終的な判断は、顧問税理士・所轄税務署・顧問弁護士にご確認ください。
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