
経理の属人化を防ぐ|月次ルーティンをテンプレ化する第一歩
「来週、どうしても休みたい日がある。でも、その日にやるはずだった支払い、私が言わないと誰も分からない」。 ひとりで経理を回していると、体調やプライベートの予定より先に、まず経理の段取りが頭に浮かんでしまう——そんな夜、ありますよね。
自分が休むと会社の経理が止まる。手順は全部自分の頭の中にあって、誰にも渡せない。これは「属人化」と呼ばれる状態ですが、ひとり経理でそうなるのは、あなたが不真面目だからでは決してありません。むしろ、ひとりで会社のお金の流れを支えてきた証です。ただ、抱えたままだと、休むのも、体調を崩すのも、いつか引き継ぐのも怖くなってしまう。
大丈夫です。属人化は、頭の中にある手順を「少しずつ外に出す」だけで、ずいぶん和らぎます。一気にマニュアルを作る必要はありません。この記事では、月次のルーティンをテンプレ化していく第一歩を、今日できる小さな単位に分けて一緒に整理していきます。
結論:属人化をゆるめる手順は、①毎月やることを時系列で書き出す(棚卸し) → ②1作業=1枚のテンプレにする(いつ・どこで・何を・注意点) → ③口座やソフトの「保管場所リンク集」を1つ作る → ④更新のルールを決める、の順です。今日やるのは①だけで十分。「毎月やっていること」を思い出すまま箇条書きにする15分から始めれば、そこから自然と形になっていきます。パスワードなど機密情報の扱いは会社のルールに従い、後述の注意点を守ってください。
なぜ、ひとり経理は属人化してしまうのか
まず知っておいてほしいのは、これは「あなたのやり方が悪い」話ではない、ということです。ひとり経理で属人化が起きるのには、はっきりした理由があります。
- 覚えているから、書く必要がない:毎月やっていれば体が覚えます。わざわざ手順を書き出す動機が生まれません。
- 記録する時間が、そもそも取れない:目の前の締めや支払いで手一杯。「手順書を作る時間」は後回しになって当然です。
- 共有する相手がいない:ひとりなので、渡す先がない。だから外に出す機会が来ないまま、知識が頭の中にたまっていきます。
つまり属人化は、真面目にひとりで回してきた結果として、自然に起きるものです。責めるべきものではありません。ただ、少しだけ「頭の外に置く」習慣を足すと、あなた自身がぐっと楽になります。
属人化をゆるめる4つのステップ

ステップ1:毎月やることを時系列で書き出す(棚卸し)
最初の一歩は、マニュアルを書くことではありません。「毎月やっていること」を思い出すまま並べるだけです。
きれいにまとめなくて大丈夫。「月初:前月分の記帳」「10日:源泉所得税の納付」「20日:給与計算」「月末:締め・請求書発行」「翌月:支払い」——このくらいのざっくりした粒度で、月のカレンダー順に書き出してみましょう。紙でもメモアプリでも構いません。
ここで大事なのは、完璧を目指さないこと。抜けがあっても、翌月「あ、これも毎月やってた」と気づいたら足せばいい。まずは頭の中の地図を、そのまま外に写すイメージです。(月初の記帳の段取りは 月初にやる前月分の記帳の段取り も参考になります。)
ステップ2:1作業=1枚のテンプレにする
書き出したリストの中から、「自分が休んだら一番困りそうな作業」を1つだけ選びます。その1作業について、次の項目を1枚に埋めていきます。
- 作業名:例)月次の給与計算
- いつやるか:毎月何日ごろ/締切はいつか
- どこで/何を使うか:使うソフト名、開く画面、参照するファイルの場所
- 手順:上から順に、次の人が読んでたどれる粒度で
- 必要なデータ:勤怠、前月データ、社会保険料額など
- 連絡先:詰まったときに聞ける相手(顧問税理士・ソフトのサポート・社長)
- 注意点/過去のつまずき:「ここは毎回間違えやすい」を一言
全部の作業を今日テンプレ化する必要はありません。1枚できれば、それがひな型になります。次の月にまた1枚。積み上げていけば、いつのまにか月次の全体像が紙になっています。
ステップ3:口座・ソフトの「保管場所リンク集」を1つ作る
手順そのものとは別に、「どこに何があるか」を1枚にまとめておくと、引き継ぎのときにも自分が探すときにも効きます。
- 使っている会計ソフト・銀行・カード・決済サービスの名前
- それぞれのログイン画面のURL(ブックマーク的な一覧)
- 各種ファイル(給与、資金繰り表、管理表)の保存場所
ここで大切な注意点があります。ID・パスワードなどのログイン情報は、この一覧に平文でまとめて書かないでください。誰でも見られる場所に認証情報を集約すると、それ自体がリスクになります。パスワードの管理方法は必ず会社のルールに従い、決められた管理ツールや保管方法を使いましょう。リンク集に書くのは「どのサービスを使っているか」「どこにファイルがあるか」までにとどめるのが安全です。
ステップ4:更新のルールをゆるく決める
テンプレは、作って終わりだと少しずつ実態とずれていきます。とはいえ、厳密な更新ルールを課すと続きません。
おすすめは、「作業をやりながら気づいたら、その場で1行直す」くらいのゆるさです。手順が変わったとき、ソフトを乗り換えたとき、つまずいたとき——そのタイミングでテンプレを開いて一言足す。月に一度「棚卸しリストに抜けはないか」を眺めるだけでも十分保てます。
具体例:まず1枚だけ作ってみる
たとえば「毎月20日ごろの給与計算」をテンプレ化するなら、こんな1枚になります。
- 作業名:月次の給与計算
- いつ:毎月20日締め・25日払い(前営業日までに振込データ作成)
- どこで:〇〇(給与ソフト名)→「月次処理」画面/勤怠データは共有フォルダの「勤怠」
- 手順:①勤怠を取り込む → ②残業・手当を確認 → ③社会保険料・所得税を確認 → ④振込データを作成 → ⑤社長に総額を報告 → ⑥振込
- 必要データ:当月の勤怠、住民税の通知額、社会保険料額
- 連絡先:ソフトのサポート(平日日中)/顧問税理士
- 注意点:入退社があった月は保険料の起算に注意。賞与月は別処理
これだけでも、もし自分が休むことになったとき、他の人が「せめて振込までは止めずに済む」道しるべになります。給与計算そのものの流れは 給与計算の基本|総支給から手取りまでの流れ もあわせてどうぞ。
テンプレ化のチェックリスト
一度に全部やろうとせず、上から少しずつ。今日はいちばん上の1つだけでも十分です。
- まず棚卸し(ここだけでも大きな一歩)
- 毎月やっていることを、カレンダー順に書き出した
- 「自分が休んだら一番困る作業」に印をつけた
- テンプレを1枚作る
- その作業の「いつ・どこで・手順・必要データ・連絡先・注意点」を書いた
- 次の人が読んでたどれる粒度になっているか読み返した
- 保管場所を整える
- 使っているソフト・口座・ファイルの場所を一覧にした
- ID・パスワードは一覧に書かず、会社のルールに沿って管理した
- 続く仕組みにする
- 「気づいたらその場で1行直す」を自分の約束にした
- 月に一度、棚卸しリストの抜けを眺める日を決めた
- 抱え込まない
- 作ったテンプレの存在を、社長か顧問税理士に一言共有した
明日やること(まず1つだけ)
明日やることは、これひとつで十分です。紙かメモアプリを開いて、「毎月やっていること」を思い出すまま15分だけ書き出す。順番も粒度もバラバラで構いません。
たったこれだけで、頭の中だけにあった月次の流れが、初めて「外から見える形」になります。テンプレ化も引き継ぎも、この一覧があれば少しずつ進められます。全部を今日やろうとしなくて大丈夫。まず1行、書き出すところから始めましょう。
最後に

属人化という言葉には、どこか「悪いこと」の響きがあります。でも、ひとりで会社のお金の流れを回してきたあなたが、その手順を体で覚えているのは、むしろ誇っていいことです。問題は、あなたの働き方ではなく、それを「頭の外に置く時間」が今までなかっただけ。
テンプレ化は、誰かに仕事を奪われるための準備ではありません。あなたが安心して休めて、いつか誰かに渡すときにも困らないための、自分へのお守りです。一気にマニュアルを完成させなくていい。今日「毎月やっていること」を15分書き出せたなら、それだけでもう、休める経理・引き継げる経理に一歩近づいています。ひとりで抱えてきたものを、少しずつ紙に預けていきましょう。
本記事は一般的な実務情報です。経理の進め方や必要な作業は、会社の規模・体制・使用するソフトによって異なります。パスワードなど機密情報の管理は自社のルールに従い、税務・会計の最終的な判断は顧問税理士・所轄税務署にご確認ください。
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