営業担当から新しい取引先の話を聞きながら、ノートパソコンの前で少し考えこむひとり経理の担当者

与信管理の基本|新規取引先の支払能力をどう見るか

午後、営業の同僚が机の横に来て、こう言います。

「来月から、新しい取引先に納品が始まります。支払いは月末締めの翌月末で、掛けでお願いします」

返事をしながら、頭の片すみで小さな声がします。「この会社、ちゃんと払ってくれるのかな」。 名前を聞いたのは今日が初めて。どこにある会社なのかも、どれくらいの規模なのかも、まだ知らない。でも、営業の話に水を差すようで、聞きにくい。

その小さな引っかかりは、気にしすぎではありません。掛けで取引をするということは、商品やサービスを先に渡して、代金はあとでもらうということです。「あとでもらえるかどうか」を気にかけるのは、会社のお金を預かる経理として、ごく自然な感覚です。

この記事では、その感覚を「なんとなくの不安」のままにせず、ひとり経理でも無理なく回せる与信管理(よしんかんり)の形にしていきます。

結論:与信管理とは、取引先ごとに「いくらまでなら、代金をあとでもらう形で取引してよいか」を決めて、守っていくことです。新規の取引先なら、①調べる(公開情報で実在と基本を確かめる)→②決める(与信限度額と取引条件を決める)→③見直す(入金の様子を見て、定期的に見直す)の3ステップで十分です。完璧な審査をする必要はありません。まずは「調べた」「決めた」を1行残すことから始めましょう。

与信管理とは|掛け売りは「先に渡して、あとでもらう」

「与信」は、文字どおり信用を与えることです。掛けで売るとき、会社は取引先に「代金はあとでいいですよ」と、いわば短い期間お金を貸しているのと近い状態になります。

たとえば、月末締め・翌月末払いの取引先に、毎月50万円ずつ納品しているとします。

つまり、この取引先には、最大でおよそ2か月分・100万円の売掛金(あとで受け取る約束になっている代金)が積み上がる瞬間があります。もしこの取引先の支払いが止まったら、この100万円が回収できなくなるかもしれない、ということです。

与信管理は、この「最大でいくら残るか」をあらかじめ把握して、会社として受け止められる範囲に収まるように取引の形を整える仕事です。相手を疑うためではなく、自分の会社と、取引そのものを長く続けるための準備だと考えると、営業にも話しやすくなります。

締め日と支払日の考え方は支払サイトと締め日|資金繰りで慌てないための基本と管理のコツでも整理しています。

新規取引先の与信管理は3ステップ|調べる・決める・見直す

ひとり経理で回すなら、与信管理は大げさな審査ではなく、「調べる」「決める」「見直す」の3ステップの流れにしておくと続きます。

左から右へ、虫めがねで書類を確かめる絵、チェックの入った用紙の絵、カレンダーと循環矢印の絵が矢印でつながり、それぞれの下に「調べる」「決める」「見直す」のラベルがある図
与信管理は「調べる→決める→見直す」の3ステップ。見直したら、また次の判断につなげます

ステップ1:調べる|公開情報で「実在」と「基本」を確かめる

最初にやるのは、相手の会社が実在していて、聞いている内容と食い違いがないかを確かめることです。無料・低コストで見られる情報だけでも、かなりのことが分かります。

調べることどこで見るか見るポイント
会社が実在するか国税庁の法人番号公表サイト名称・所在地が、営業から聞いた内容や名刺と一致するか
インボイスの登録国税庁の適格請求書発行事業者公表サイト登録の有無。取引先マスタにも確認日を残す
設立時期・役員・本店所在地法人の登記情報(法務局、またはオンラインの登記情報提供サービス)設立からの年数、役員や本店所在地の変更の様子
事業の中身相手の会社のホームページ、会社案内事業内容・取引の内容が自然につながるか
支払能力(必要なとき)信用調査会社のレポート、相手から受け取る決算書取引額が大きいとき・不安があるときに検討する

全部を毎回やる必要はありません。取引額が小さいなら上の3行まで、取引額が大きい・前受けにしにくいといった場合に下の行まで、という具合に、金額に応じて深さを変えるのが現実的です。会社の規程で反社会的勢力のチェックを行っている場合は、その手順もこのステップに入れておきます。

インボイス登録番号の確かめ方はインボイス登録番号の確認方法|取引先チェックの進め方にまとめています。

ステップ2:決める|与信限度額と取引条件

調べた結果をもとに、「この取引先には、いくらまで」を決めます。これが与信限度額です。

決め方の目安は、さきほどの計算をそのまま使います。

月の取引見込み額 × 締め日から入金日までの月数 = 売掛金が最大で積み上がる額

月50万円・月末締め翌月末払いなら、50万円×2か月=100万円。この100万円が、会社として受け止められる額かどうかを考えます。

もし「新規の相手に、いきなり100万円は少し大きい」と感じたら、限度額を下げるか、取引条件のほうで調整します。

ここで大事なのは、経理が一人で決めないことです。取引条件を決めるのは、多くの会社で営業や社長です。経理の役割は、「調べた結果」と「最大でいくら残るか」を数字で並べて、判断の材料をそろえること。そのうえで決まった限度額と条件を、取引先マスタや与信管理の一覧に1行で残します。

前受金の仕訳で迷ったときは前受金と前払金の仕訳|内金・手付金の使い分けを迷わないを見てみてください。

ステップ3:見直す|入金の様子を見て、定期的に

与信限度額は、一度決めたら終わりではありません。取引が始まったら、入金の様子が、そのまま次の判断の材料になります。

入金の遅れは、滞留債権リスト(売掛金年齢表)の作り方|回収遅れを早く見つけるの年齢表を毎月残しておくと、早く気づけます。逆に、1年間ずっと順調に入金してくれている取引先なら、限度額を上げたり、取引条件をゆるめたりする前向きな見直しの材料にもなります。

具体例|月50万円で始まる新規取引先(架空)

具体的な流れを、架空の取引先で見てみます。

営業から「株式会社みほん工業(架空)に、月50万円ほど、月末締め・翌月末払いで納品したい」と相談がありました。

  1. 調べる:法人番号公表サイトで名称と所在地を確認し、名刺の住所と一致。インボイスの登録もあり。登記情報では設立から8年、本店所在地の変更なし。ホームページの事業内容も、今回の取引とつながる内容だった。
  2. 決める:最大の売掛残高は、50万円×2か月=100万円。社長と営業に「調べた範囲では気になる点はなかった。ただ最大で100万円が入金前に積み上がる」と共有。相談の結果、与信限度額は100万円、取引条件はそのまま、と決めて一覧に記録。
  3. 見直す:3か月目、注文が増えて月80万円の見込みに。このままだと最大の売掛残高は80万円×2か月=160万円となり、限度額の100万円を超える。そこで経理から営業に「限度額を超えそうです」と声をかけ、それまでの入金が毎回期日どおりだったことも添えて、限度額を見直すか、支払日を早めてもらうかを相談した。

この例で経理がしたことは、調べて、数字を出して、超えそうなときに声をかけたことだけです。でも、その一言があるかないかで、会社が抱える売掛金の大きさは、大きく変わってきます。

取引先調べた日調べた範囲月の見込み額締め・入金与信限度額決めた人・日見直しメモ
株式会社みほん工業(架空)2026-10-11法人番号・インボイス・登記・HP50万円末締め・翌月末入金100万円社長・2026-10-113か月目に月80万円見込み→相談

この1行は、取引先マスタの整え方|振込先・締め日・支払サイトを1か所にの取引先マスタに列を足して持っても、別の一覧にしても構いません。「どこを見れば限度額が分かるか」が1か所に決まっていれば、それで十分です。

影響|与信管理があると、何が変わるか

与信管理を始めて、いちばん変わるのは、「なんとなく不安」が「数字で話せる心配」になることです。

そして、あなたがいま「この会社、大丈夫かな」と感じているのは、会社のお金のことを、ちゃんと自分ごととして見ているからです。与信管理は、その感覚に「調べた」「決めた」という形を与えるだけのことです。

明日やること(まず1つだけ)

明日やるのは、全取引先の与信を見直すことではありません。

次に始まる新規取引先、または取引額のいちばん大きい得意先を1社だけ選んで、「月の取引額×締め日から入金日までの月数」を計算してみる。 それだけです。

出てきた数字を見て、「思ったより大きいな」と感じたら、その感覚を営業や社長に一言伝えてみてください。「思ったとおりだな」なら、その数字を限度額の候補として、一覧に1行残しておきましょう。その1行が、与信管理のはじまりです。

与信管理のチェックリスト

上から順に。今日は「まずここだけ」の1つで十分です。

最後に

順調に入金が続いている取引先の一覧を確かめながら、営業の同僚と笑顔で話すひとり経理の担当者

冒頭の、営業から新しい取引先の話を聞いた場面に戻ります。

「この会社、ちゃんと払ってくれるのかな」と思ったのは、水を差したいからではなく、会社のお金と、これから始まる取引の両方を大事にしたいからです。その気持ちは、ひとり経理のとても大切な役割です。

与信管理は、立派な審査の仕組みでなくて大丈夫です。調べて、数字を出して、1行残す。超えそうなときに、一言かける。それだけで、取引は安心して長く続けられるものになっていきます。

まずは1社、計算するところから。一緒に始めてみましょう。

本記事は一般的な実務情報です。与信限度額の決め方や取引条件、取引先の調査の範囲は、会社の規程や業種、取引の内容によって異なります。個別の判断に迷う場合は、社内の決裁者や顧問税理士などの専門家にご相談ください。

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