税務調査の連絡を受けて、書類の保管棚の前でこれから何をそろえるか確かめている中小企業のひとり経理の担当者

税務調査の準備|日ごろ整える書類と連絡が来てからの段取り

「税務署の○○と申します。来月、御社にお伺いして調査をさせていただきたいのですが」。

受話器を置いたあと、しばらく手が動かなくなる。あの電話は、経理をひとりで回している人にとって、たぶんいちばん心臓に悪い着信です。頭の中を「何かまずいことをしただろうか」「あの仕訳で合っていたかな」がぐるぐる回って、そのまま夕方になってしまう。そんな日、ありますよね。

でも、まず深呼吸を。税務調査は、悪いことをした会社を捕まえに来るものではありません。申告の内容が帳簿と合っているかを、実際に見て確かめる手続きです。しかも原則として事前に連絡があり、見られる書類も、聞かれることも、だいたい決まっています。この記事では、日ごろ整えておくものと、連絡が来てからの段取りを、順番にほどいていきます。

結論:税務調査で見られるのは、ほとんどが帳簿・証憑・通帳・契約書の4つです。日ごろこれらを「聞かれたらすぐ出せる」状態にしておけば、準備の大半は終わっています。連絡は原則として事前に来て、日程も相談できます(国税通則法の事前通知)。連絡を受けたら、①顧問税理士にすぐ共有する→②通知された対象期間・税目をメモする→③その期間の帳簿と証憑を棚から出して並べる、の順で動けば大丈夫です。慌てて過去の仕訳を書き換えるようなことだけは、しないでおきましょう。

税務調査は、いきなり来るものではない

不安の多くは「何が起きるか分からない」ことから来ます。まず、輪郭をつかんでおきましょう。

中小企業に来るのは、ほぼすべてが任意調査です。これは、税務署の調査官が会社を訪ねて、帳簿や書類を見ながら申告内容を確認する手続きのこと。ニュースで見る「国税局査察部が段ボールを運び出す」映像は強制調査(査察)といって、脱税の疑いが極めて重いケースに限られる、まったく別のものです。日々きちんと記帳している会社が、あちらの対象になることはまずありません。

そして任意調査には、原則として事前通知があります。国税通則法で、調査を行う前に、次のようなことを納税者(と、税務代理権限証書を出している顧問税理士)へあらかじめ知らせることが定められています。

つまり、「いつ・どこで・何を・どの期間分見るか」は、当日までに分かるということです。ここが分かっているだけで、準備の見通しはずいぶん立ちます。

日程についても、合理的な理由があれば相談して変更できます。決算作業の真っ最中、月末の支払処理と重なる、担当者が入院している——そうした事情は伝えて構いません。「指定された日に絶対に受けなければならない」わけではないので、無理をして体を壊さないでください。

なお、現金商売など一部のケースでは事前通知なしで調査が行われることもあります。ただ、これは限られた場面での取扱いです。ふだんどおり記帳している会社は、ひとまず「連絡は来るもの」と考えておいて差し支えありません。

「なぜ、うちに来たんだろう」と考えすぎない

調査の連絡が来ると、どうしても「何か疑われているのでは」と考えてしまいます。でも、実地の調査は何年かに一度、順番に回ってくる性格のものでもあります。設備投資や消費税の還付があった、売上が大きく伸びた(あるいは落ちた)、しばらく調査を受けていない——きっかけはさまざまで、必ずしも「不正を疑われている」というサインではありません。

ちなみに、税務署の事務年度は7月から翌年6月までで、7月に人事異動があります。そのため夏から年末にかけては調査の連絡が増えやすい時期だと言われます。この記事を読んでいるのが8月なら、「そういう季節なんだな」と受け止めるくらいがちょうどいい距離感です。

見られる書類は、だいたい決まっている

税務調査で確認される主な書類を帳簿・証憑・通帳・契約書の4つのグループに分けて棚に並べた図
見られるのは、だいたいこの4つ。日ごろ「すぐ出せる」状態にしておけば準備の大半は終わっている

調査で「見せてください」と言われるものは、会社によって多少違っても、大枠は共通しています。次の4グループで覚えておくと整理しやすいです。

  1. 帳簿:総勘定元帳、仕訳帳、現金出納帳、売掛帳・買掛帳、固定資産台帳など。会計ソフトを使っているなら、画面でも印刷でも構いません。
  2. 証憑:請求書、領収書、レシート、納品書、契約時の見積書など、取引の事実を裏づける書類です。自社が発行した請求書の控えも含みます。
  3. 通帳:預金通帳、ネットバンキングの入出金明細。会社名義のものはもちろん、社長個人の口座で会社のお金が動いていれば、そこも確認の対象になることがあります。
  4. 契約書など:取引基本契約書、賃貸借契約書、外注先との契約書、株主総会・取締役会の議事録、就業規則、賃金台帳、源泉徴収簿など。

このほか、業種によっては在庫の受払表、社長のスケジュール帳、名刺、社内の稟議書などを見せてほしいと言われることもあります。

そして、これらの書類には保存期間が決まっています。法人の帳簿書類は、原則としてその事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間。ただし、欠損金(赤字)が生じた事業年度は10年間です。調査で対象になるのは通常直近の数期分ですが、保存自体はこの年数で考えておきましょう。

赤字の年があった会社は「10年」のほうが効いてきます。繰越欠損金の残高管理とセットの話なので、繰越欠損金の基本|赤字を10年繰り越す条件と別表七での残高管理も合わせて確認しておくと安心です。

電子で保存しているものは「探せる状態か」まで

紙の書類だけでなく、電子で受け取ったものも同じように見られます。メールに添付されてきたPDFの請求書、Web上でダウンロードした領収書、クラウドサービスの利用明細。これらは電子帳簿保存法でいう電子取引にあたり、データのまま保存しておくことになっています。

調査の場面で問われるのは、保存しているかどうかだけでなく、その場で目当てのデータを出せるかです。「2025年10月の、○○商事への支払いの請求書を見せてください」と言われて、フォルダを延々とさかのぼることになると、それだけで時間も気力も削られます。

ファイル名や保存フォルダの整え方は電帳法の検索要件|ファイル名だけで探せる状態に整えるに、電子取引そのものの基本対応は電子取引データの保存|結局なにをすればいいかを整理するにまとめています。まだ手をつけられていなくても大丈夫。今日から新しいものだけ整えていく、で十分前に進みます。

当日の流れを、先にイメージしておく

知らない場所へ行くのが不安なのは、道順を知らないからです。当日の流れも、先に地図を持っておけば怖さが減ります。中小企業の調査は、2日間程度で行われることが多いです。

ここで、経理担当者として押さえておきたいことがひとつ。分からないことは「分からない」「確認します」と答えていい、ということです。その場で無理に答えて、あとから違っていたほうが話がややこしくなります。「担当していない時期なので、確認して後日お答えします」で、まったく問題ありません。

顧問税理士がいるなら、調査には立ち会ってもらうのが基本です。日程調整の段階で、必ず税理士の予定も合わせて決めましょう。決算まわりの資料の整え方は税理士に決算を頼む前に|社内でそろえる資料の準備リストと考え方が近いので、そのまま流用できます。

よく確認される5つのところ

「どこを見られるんだろう」が分かっていれば、日ごろの記帳のどこに気をつければいいかも見えてきます。ひとり経理の現場でよく話題になるのは、次のあたりです。

1. 売上の計上時期(期ズレ) 決算期末をまたぐ売上が、正しい期に入っているか。3月決算なら、3月に納品して4月に請求したものは3月の売上です。ここは調査でいちばん見られる論点と言っていい部分です。期ズレを防ぐ|計上月を間違えない発生主義の考え方で、計上日の決め方を整理しています。

2. 棚卸(在庫)の計上漏れ 期末に手元にある在庫は資産です。数え漏れると、その分だけ利益が小さく出ます。実地棚卸の記録(誰が・いつ・何を数えたか)が残っていると、説明がとても楽になります。→棚卸(実地棚卸)の進め方|数え方と在庫評価の基本

3. 外注費と給与の区分 外注費として処理しているものが、実態としては給与ではないか。ここは源泉徴収と消費税の両方に響くので、確認されやすいところです。契約書と、実際の働き方の記録がそろっていれば説明できます。→外注費と給与の線引き|源泉徴収と消費税を間違えない判断軸

4. 交際費・福利厚生費のなかみ 飲食の領収書について「これは誰と、何の目的で」と聞かれることがあります。領収書の裏や経費精算の備考に相手先と人数をメモしておくだけで、後から思い出す手間がなくなります。→交際費の損金不算入|中小企業の800万円枠と1人1万円の飲食費

5. 役員まわりのお金 役員貸付金の残高、役員報酬の決め方、会社の経費に個人的な支出が混ざっていないか。小さな会社ほど、会社と社長のお金の境界があいまいになりがちな部分です。→役員貸付金・役員借入金の仕訳|認定利息と残高管理の基本

このほか、士業への報酬から源泉税を引き忘れていないか(報酬の源泉徴収|税理士・デザイナーへの支払で「引くか」を迷わない)、契約書や領収書の収入印紙(収入印紙が必要な書類と金額|請求書・領収書・契約書で迷わない)も、あわせて確認されることがあります。

どれも「知らないと落とし穴」ではなく、知っていれば日々の記帳でついでに整えられるものばかりです。一度に全部でなくて構いません。次の月次でひとつ、意識してみるくらいで十分です。

明日やること(まず1つだけ)

明日やるのは、直近1期分の証憑がひと続きで出せるかを、実際に棚から出して確かめることだけで十分です。

前期の請求書ファイル、領収書ファイル、通帳を並べてみて、「4月から翌3月まで、抜けている月はないか」を目で追う。それだけで、自社の書類が今どういう状態かが分かります。抜けている月が見つかったら、そこにメモを1枚はさんでおく。今日はそこまでで大丈夫です。

そして、調査の連絡がまだ来ていないなら、この確認をした日付をどこかに記録しておくこと。年に一度、決算のあとに同じ確認をする習慣にできると、いざというときの準備がほとんど要らなくなります。年間の段取りに組み込むなら経理の年間スケジュール|1枚にまとめて先回りする作り方が使えます。

税務調査 準備チェックリスト

上から順に確認し、自社に関係ない項目は外してください。日ごろの分と、連絡が来てからの分に分けています。

日ごろから整えておく

事前通知の連絡が来たら

当日と、そのあと

全部に一度で丸をつけなくて大丈夫です。まずは前期の証憑ファイルを1つ、棚から出してみる——今日はそこまでで十分です。

迷いやすいところへの、ひとことメモ

最後に

税務調査がこわいのは、後ろめたいことがあるからではなく、自分ひとりで受け止めなければならないからだと思います。相談できる同僚が社内にいない。誰かに「大丈夫だよ」と言ってもらえない。その心細さが、不安の正体ではないでしょうか。

でも、あなたはこれまで、毎月ちゃんと記帳してきました。請求書をファイルに綴じて、通帳を記帳して、月次を締めてきた。その積み重ねが、そのまま調査の準備になっています。特別なことを新しく作る必要はありません。すでにある書類を、すぐ出せる場所に並べておくだけです。

今日できることは、たったひとつ。前期の証憑ファイルを棚から出して、月の抜けがないか見てみる。それだけで、この件は前に進みます。

調査に備えた書類をひととおり並べ終えて、見通しが立ち穏やかな表情になっているひとり経理の担当者

いつ連絡が来ても、「棚から出すだけ」で済む状態にしておく。それができていれば、あの電話は、もうこわい着信ではなくなります。あなたはちゃんと、備えられます。

本記事は一般的な実務情報です。税務調査の手続や取扱いは個別の事情や最新の通達によって異なります。調査への対応・修正申告の要否など、最終的な判断は、顧問税理士・所轄税務署にご確認ください。

よければ、こちらも

ほかの実務の手順も、記事一覧から少しずつ一緒に整理していきましょう。